読んだらすごかった本ランキング 2000 旅と現代文学。Award

2000年に読んだ145冊のなかからお気に入りの10冊を挙げてみます。過去分

1位

沢木耕太郎『深夜特急』

表紙

1994年3〜6月 新潮文庫 全6巻各420〜460円

内容紹介:インドのデリーからイギリスのロンドンまで、乗合いバスで行く――。ある日そう思い立った26歳の〈私〉は、仕事をすべて投げ出して旅に出た。途中立ち寄った香港では、街の熱気に酔い痴れて、思わぬ長居をしてしまう。マカオでは「大小(タイスウ)」というサイコロ賭博に魅せられ、あわや……。一年以上にわたるユーラシア放浪が、いま始まった。いざ、遠路2万キロ彼方のロンドンへ!

100字レビュー:バックパッカーのバイブル的ユーラシア大陸横断バス紀行。香港のエネルギーに圧倒され、マカオのカジノに熱中し、目的のない長い旅は序盤からきっぱりとアジアの風の中にある。この只事ではない高揚感はなんだろう。

2位

原田宗典『優しくって少し ばか』

表紙

1990年1月 集英社文庫 480円

内容紹介:男は、いけない。女もいけない。いけない二人が一緒にいるから、なおいけない。けれど1人じゃまたいられない…。ついたり、離れたり、危うい男女の関係を編んだ作品集。

100字レビュー:「男の純情」が柔らかく部屋に満ちる表題作がしみじみとよい。文体もセリフも微笑ましくて、清涼な読後感。その他はトーン変わって阿刀田高的に背筋の寒い短編が並ぶが、「雑司ヶ谷へ」で選び取られる細部が僕好み。

3位

重松清『ナイフ』

表紙

2000年7月 新潮文庫 620円

内容紹介:「悪いんだけど、死んでくれない?」ある日突然、クラスメイト全員が敵になる。僕たちの世界は、かくも脆いものなのか! ミキはワニがいるはずの池を、ぼんやりと眺めた。ダイスケは辛さのあまり、教室で吐いた。子供を守れない不甲斐なさに、父はナイフをぎゅっと握りしめた。失われた小さな幸福はきっと取り戻せる。その闘いは、決して甘くはないけれど。

100字レビュー:いじめを描くことの責任感も背負い込んだような意志溢れる短編集。退屈と窮屈で膿んだ教室を這いつつその実、親子の関係修復物語だ。戦場との対比も見事な表題作もいいが、「エビスくん」は凡庸であるだけ胸を打つ。

4位

筒井康隆『夢の木坂分岐点』

表紙

1990年4月 新潮文庫 500円

内容紹介:サラリーマンか作家か? 夢と虚構と現実を自在に流転し、一人の人間に与えられた、ありうべき幾つもの生を重層的に描いた話題作。

100字レビュー:サイコドラマに始まりユンギストが大喜びしそうな「夢」の奥底へ、心の深部へ潜って行く長編。主人公の属性が推移するなど著者流の実験小説の軽味かと思いきや本気で重厚に心理学的。妻も娘も全部自分だし。すげぇ。

5位

町田康『実録・外道の条件』

表紙

2000年10月 メディアファクトリー 1470円

内容紹介:「いったいこれはなんなんです?」「いえ、これは今回着ていただく衣装ですけど」「しかし僕は女装するとは聞いていない」… 「ファッションの引導鐘」他全4編を収録。『ダ・ヴィンチ』連載をまとめる。

100字レビュー:マスコミの低能を罵倒する短編集。良心も常識もない奴等の無礼からこちらも不愉快になる寸前、ジューシーな文章で笑いにかっさらってくれるのが心地よくて。実録だとするなら紐育のしゅず子はその後どうなったのだ?

6位

宮本輝『錦繍』

表紙

1985年5月 新潮文庫 460円

内容紹介:「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」運命的な事件ゆえ愛しながらも離婚した二人が、紅葉に染まる蔵王で十年の歳月を隔て再会した。そして、女は男に宛てて一通の手紙を書き綴る――。往復書簡が、それぞれの孤独を生きてきた男女の過去を埋め織りなす、愛と再生のロマン。

100字レビュー:愛人との心中未遂から堕ちる男と、モーツァルトに死を聴く女が、離縁から10年を経て綴り出す往復書簡。割れた壺のような冷たい無音に支配される文脈のなかで、生へと牽引する令子の存在が感動的。過去、現在、未来。

7位

鴻上尚史『ものがたり降る夜』

表紙

2000年1月 白水社 1680円

内容紹介:援助交際で手痛い目にあった二人の女性、謎めいたカウンセラー。セックスをめぐる、「物語」たちは、民話サークルを騙る新興宗教の信者をも巻き込み、悩める者のこころを癒してゆく……。

100字レビュー:セックスに正面から向き合った戯曲。現代の問題を考える上での立脚点としていくらか民俗学的手法を選び取っている。物語り物語られながら静かに降り積もるセックスの真理。愛なんて甘いことを言ってる場合ではない。

8位

柳美里『タイル』

表紙

2000年10月 文春文庫 410円

内容紹介:部屋中にタイルを敷きつめる男。離婚した妻、管理人、女流作家。都会の日常に潜む恐怖と殺意を描いて絶賛された純文学ホラー傑作。

100字レビュー:部屋の床壁天井をタイルで埋めつくす男は、モザイクという細密な狂気を体現する。切れ味良い文体で不安を煽る「ホラー純文学」で一息に読ませる。「女流作家」が描く官能小説が溶け始めるクライマックスは大迫力だ。

9位

宮本輝『道頓堀川』

表紙

1994年12月 新潮文庫 420円

内容紹介:大阪ミナミの歓楽の街に生きる男と女たちの、人情の機微、秘めた情熱と屈折した思いを、青年の真率な視線でとらえた、長編第一作。

100字レビュー:道頓堀川の澱みに映る薄暗い繁華街で生きる人間達の長編。「同じ船に乗り合わせ」た者同士のシビアな人生ドラマだ。人数分の過去があってなおかつ過去は問わない演歌的青春群像。ビリヤードの最終段は完璧な美しさ。

10位

鈴木清剛『ロックンロールミシン』

表紙

1998年6月 河出書房新社 1260円

内容紹介:高校時代の友人が始めたインディーズブランド「ストロボ・ラッシュ」。会社を辞めて時々彼らのマンションを訪れるうち、賢司は服作りに巻き込まれていく……『ラジオ デイズ』に続く話題作。

100字レビュー:インディーズブランドでビックになる友人の夢に感化されてゆくサラリーマン崩れの主人公。終わりと始まりとがミシンのリズムで鳴っている。若さへの甘えも感傷で流してしまえば青春の一ページ、という策略的うまさ。