読んだらすごかった本ランキング 2002 旅と現代文学。Award

2002年に読んだ132冊のなかから、面白かった本10冊をピックアップ。2002年に出版された本が一冊もないのがミソ。過去分

1位

大崎善生『パイロットフィッシュ』

表紙

2001年10月 角川書店 1470円

内容紹介:人は、一度巡り会った人間とは別れることが出来ない――。印象的な言葉を残しながら主人公の元を去っていった人々の姿、人間模様を良質なセンチメンタリズムを内包した繊細な文章で綴った長編恋愛小説。

100字レビュー:頭から尻まで意志が詰まってるのに不思議に透明感を湛えた文章で、気の抜けた部分がまったくない。「心の湖に沈む消せない記憶」という装置もその感傷も、決して目新しいものでもないんだけど、正攻法でぐっとくる。

選評:特に文学として真新しいものはなにもないのですよね。それゆえに正統派としてすっきりと心に響きます。この本に出会えた2002年は幸せなことでした。掲示板でどなたかからおすすめをいただいたんでしたね、確か。人のすすめは読んでみるものです。

2位

川上弘美『センセイの鞄』

表紙

2001年6月 平凡社 1470円

内容紹介:「センセイ」は私の高校時代の古文の先生。十数年ぶりに再会したセンセイと私の、セツセツとした淡き恋の行方は? 人気女流作家のオカシくて、哀しい最新長編恋愛小説。

100字レビュー:元先生と教え子が居酒屋で再会。飲み友達からゆっくり育ってゆく恋の坂道には、郷愁のような痛みを覚える。懐かしい恋。隙だらけの行間から立ち上るこの温かみは何だろう。旅行のシーンも微笑ましくてドキドキする。

選評:「恋がしたくなって困る」という絶賛(?)を贈ったわけですが。それ以降、彼女の作品を何冊か読み進めてくると、この『センセイの鞄』は彼女の得意分野からは若干外れる作品なんだろうなとも思います。素晴らしい出来なのは変わりませんが。

3位

保坂和志『季節の記憶』

表紙

1999年9月 中公文庫 780円

内容紹介:ぶらりぶらりと歩きながら、語らいながら、静かにうつらうつらと時間が流れていく。鎌倉・稲村ガ崎を舞台に、父と息子、便利屋の兄と妹の日々…それぞれの時間と移りゆく季節を描く。平林たい子賞、谷崎潤一郎賞受賞の待望の文庫化。

100字レビュー:父と息子、友人たちとの静かな稲村ガ崎。父は浮世離れしてるようでいて厳格に自己規定しているし、息子クイちゃんもその影響下にあるのだが、この関係がすごくいい。クイちゃんの純真が物語を愛らしく中和しながら。

選評:この作家の求めている世界がいちばん明確に見える作品だと思います。そして、主人公の世界に対する距離感が、僕のもつそれと非常に近いのですよね。とりあえずクイちゃんの愛らしい言動を見るだけでも楽しいのでどうぞ。気にいったら続編『もうひとつの季節』も。

4位

池澤夏樹『カイマナヒラの家』

表紙

2001年3月 ホーム社/集英社 1890円

内容紹介:神々の島、ハワイイに魅せられた人々が夢をつむいだ一軒の屋敷。ときは流れ、いくつかの人生がとけあい、やがてひとつの物語が生まれた。ぬけるような海の写真とともに綴られた珠玉のフォト・ノベル。

100字レビュー:ハワイイの家に入れ替わり暮らす若者たち。サーフィン賛歌も淡い恋心も悔恨も、全部この島の歴史のように受け止める家。ヒッピー的な時代恋慕に陥ることなく、それでもきっぱり懐かしい。波の音が聞こえる静けさだ。

選評:一昔前の青春映画のような短編集。ハワイのサーファーなんていう「一昔前の青春」風が、実に爽やかにも懐かしいです。自分ではサーフィンなんてやったこともないわけなんですが、それでもちゃんと懐かしい。

5位

糸井重里『ほぼ日刊イトイ新聞の本』

表紙

2001年4月 講談社 1785円

内容紹介:未来はとっくにはじまっている(不細工ですが)。超人気ホームページ、誕生と成長のドラマ 新しい「仕事の形」がわかる本。

100字レビュー:あまりにも有名な氏のサイト、その地位を確率してゆく過程を絵解くエッセイ。ネットの将来を考える一つのテストケースだな。それでも「ビジネスモデルにならない」という事実はサイト運営者にとって痛いものだろう。

選評:氏のウェブサイト運営にまつわるもろもろの顛末を記すエッセイですが、ウェブサイト作成に関わる人にはぜひ読んでもらいたい一冊。こういうスタンスで運営されているサイトって珍しいのかもしれないですね。

6位

中島らも『今夜、すべてのバーで』

表紙

1994年3月 講談社文庫 560円

内容紹介:薄紫の香腺液の結晶を、澄んだ水に落とす。甘酸っぱく、すがすがしい香りがひろがり、それを一口ふくむと、口の中で冷たい玉がはじけるような……。アルコールにとりつかれた男・小島容(いるる)が往き来する、幻覚の世界と妙に覚めた日常そして周囲の個性的な人々を描いた傑作長篇小説。吉川英治文学新人賞受賞作。

100字レビュー:酒で肝臓をやって入院するアル中の男が、冴え冴えした病室で見つける生き方。実体験が元になってるとはいえ「口は悪いが誰より熱い医者」など舞台装置は周到にすぎる。それでも「依存」の在処を探る手つきは確かだ。

選評:その著者ではじめて読んだ作品って、いい評価をしちゃう癖が僕にはあるようで。かっこいいじゃんコレ、って。(実体験に裏打ちされた?)アル中の闘病物語で、そんな物語なのに、優しい心のいい話になってます。

7位

角田光代『学校の青空』

表紙

1999年5月 河出文庫 546円

内容紹介:中学に上がって最初に夢中になったのはカンダをいじめることだった――退屈な日常とおきまりの未来の間で過熱してゆく少女たち。女の子たちの様々なスクール・デイズを描く各紙誌絶賛の話題作!

100字レビュー:理由のない死への誘惑、クラスメイトと研ぎあう自意識、少女達の抱える鬱を正面から捕らえて横へ流すやり口。演じてるんだかそれが自分なのか分からなくなる「学校ごっこ」の泣けないほど美しいラストに感じ入った。

選評:いじめだったり無気力だったり、まぁありがちな学校の話なんだけども。細部のタッチがあまりない類のものでちょっと新鮮でした。登場人物たちを突き放しきってて、似たような題材でも重松清のそれとはまた違うんだな。

8位

大江健三郎『「雨の木」を聴く女たち』

表紙

1986年2月 新潮文庫 500円

内容紹介:荒涼たる世界と人間の魂に水滴をそそぐ「雨の木」のイメージに重ねて、危機にある男女の生き死にを描いた著者会心の連作小説集。

100字レビュー:雨の木(レイン・ツリー)という暗喩に仮託した連作。結果的に連作という形になったのだという嘘も、形を変えながら繰りかえされる死の葉陰からこの結末にたどり着くために重要な布石だろう。雨、南国に降る雨の温度。

選評:いまさらこんなのを、それも8位なんかで置いてちゃいけないのかもしれないんですけどね。大江健三郎は系統立って読んでなくて飛び飛びです。順番に読まなきゃだめ、ってよく言われるんですけど。この連作短編はなかなかお気に入り。

9位

北村薫『ターン』

表紙

2000年7月 新潮文庫 620円

内容紹介:真希は29歳の版画家。夏の午後、ダンプと衝突する。気がつくと、自宅の座椅子でまどろみから目覚める自分がいた。3時15分。いつも通りの家、いつも通りの外。が、この世界には真希一人のほか誰もいなかった。そしてどんな一日を過ごしても、定刻がくると一日前の座椅子に戻ってしまう。ターン。いつかは帰れるの? それともこのまま……だが、150日を過ぎた午後、突然、電話が鳴った。

100字レビュー:時の流れから脱落して一人同じ1日を繰り返す。音のない世界の永遠の7月。乗り辛い二人称小説だと思ってたのだが、鳴らないはずの電話が鳴る中盤以降はぐっと引き込まれる。こんな明確な救済ってなかなかないもんね。

選評:うまい作家だなと思いますね。まだこれと『スキップ』しか読んでませんが、『リセット』とあわせ三部作となる。人称の処理だとか(ってそこばかり着目してますが)テクニカルな部分に惚れた一冊です。ややこしい世界設定だからこそ丁寧なストーリーテリングが光ります。

10位

重松清『ビタミンF』

表紙

2000年8月 新潮社 1575円

内容紹介:「ビタミンF」は、家族を元気にする“読むビタミン”。息子が理想通りに育たなかったり、娘に突然カレシができたり、夫婦の仲に危機が訪れたり……それぞれの形で“黄金期”を過ぎようとしている七つの家族は、次の季節をどんな表情で迎えるのか。夏バテに効く、感動の家族小説集です。

100字レビュー:Family、Father、FriendなどいろんなFが主題となる。短編によって波はあるが「セッちゃん」は特によい。現実は歯噛みするほど厳しい。読んで「家族っていいものだなぁ」と思わない人はビタミン不足の恐れありです。

選評:どうしても最初に読んだ『ナイフ』での感動を超えられずにいるんですけれど、これも佳作。女子高生から老人まで、彼が描き出す人物はみな魅力的です。家族というテーマへのこだわりも、この時代にあって正解のひとつでしょう。