トップ > 新刊・近刊情報 > 特集 > 読んだらすごかった本ランキング 2003
2003年中に読んだ91冊のなかから、すごかった本10冊をピックアップしました。読了100冊超えなかったのは久しくないことではあるんですが、収穫本はいくつもありました。この10冊はすごいですよー。過去分
1位
2003年8月 新潟日報事業社 2520円
内容紹介:著者の原風景ともいえる新潟の港町を舞台に、三味線の音色のストイックさと、現代人ならだれもが抱える俗、複雑な人間関係といったものを絡ませながら物語は展開する。新潟日報連載小説 待望の単行本化。
100字レビュー:故郷新潟の地上げをするべく飛ばされた男。実質的なリストラへの遠い海鳴りみたいな怒りと、趣味以上の腕の三味線が人間関係を複雑にして。最後まで続く曇天に、何より雪と波濤を舞わせる三味線の音色描写がすごい。
選評:つい最近読んだから印象に残ってるだけだろ?って言われそうな気もしますがとんでもない、当年ナンバーワンでございます。故郷を壊そうとしてる地上げ屋の自分と、三味線弾きとしての自分とに引き裂かれる長編。何度も言うけど「音が目の前にある」感覚は結構新鮮よ。三味線ってこれまでそんなに真剣に聞いたことなんてなかったわけですが、それでも腹の中まで揺れますからね。土台がしっかりしてるからトリッキーにもならず。新潟弁が覚えられるという特典ももれなく付いてます。
2位
2002年1月 河出書房新社 1680円
内容紹介:着ぐるみの「キ」は危険の危! 着ぐるみの「キ」は奇跡の奇! 森博嗣、庵野秀明、リリー・フランキー氏ほか、各界絶賛の前代未聞の大作誕生。マンガ+小説のモンスター的衝撃!!
100字レビュー:漫画と小説を融合させた作で、奇抜ながら両者の強みを効果的に取り込んでいる。しかも様式遊びでもなく、不細工な人は着ぐるみを着けなければならない「自覚」と「無自覚」のなかで人の心の黒い塊を見せつけている。
選評:漫画と小説を融合させた作。たぶん評価ぱっきり分かれると思うんですけどね。新しい世界を開拓したいという作者のフロンティアスピリットを僕は高く評価します。もちろんスタイルだけで中身が空なら見向きもしませんが、そうじゃないところがすごいです。ここで歌われてるのは要するに自意識と実体のバランスという問題なんで、ちゃんと読むと深いです。絵柄で不快になる人もいるかもしれませんが、そこはほら、我慢ですよ。
3位
2003年10月 朝日新聞社 上・下巻各1785円
内容紹介:20世紀最後の夏、神の町で何が起きたのか? 占領下の血塗られた歴史と三つの事件が同時多発的に炸裂する現代小説の問題提起作。『アサヒグラフ』『小説トリッパー』掲載に大幅な加筆をして単行本化。
100字レビュー:轢自殺を発端に神の町で連続して起こる事件、世界の審判と救済を見据える大長編。多くの人物が絡み合う物語を編むという意図は分かる。警察官・中山の造形は素晴らしいけど人多すぎ。結末は阿部らしく冷徹でグッド。
選評:待望の長編。巻頭の「主な登場人物」の量からも力の入れようが伝わってくるけど、「住人」全員を描くという野望が形になってて力量が見える。前半は誰が誰だか把握するだけで大変なのだが・・・。洪水は神の思し召しか? ラストの雪崩のようなカタルシスは著者お得意とするところだけれど、早くそこまで辿り着きたいのにいろんな伏線を張りながらじっと耐える雰囲気は村上龍『コインロッカー・ベイビーズ』を彷彿とさせますね。
4位
2001年7月 小学館 1680円
内容紹介:都市を疾走する歌人、穂村弘が9年ぶりに放つ書き下ろし歌集。キャバクラ嬢からウエイトレスをして暮らす女の子「まみ」の日常と切ない愛の祈りを、タカノ綾のキュートなイラストとともに鮮やかに現出させた問題作。
100字レビュー:キュートで破滅的な「まみ」の言葉を拾うそぶりで、作者のじっとりとした闇を見せ付ける。バランスをとるだけのために置かれたような能天気な歌にしても、個々に結んだ響かせ方が上手い。かたつむりが宇宙に見える。
選評:歌集です。少女まみが穂村弘宛に送りつけてくる膨大な量の手紙、それがこの短歌です、という設定。まみの呼吸や生活リズムがキレイに見えてくるんですよね。言葉の選び方はかなり超絶的なんですけども、それが彼女の口調だと思えば人物像を結ぶのに効果的。そんな設定だから書ける「ほむほむラブ」に赤面しましょう。タカノ綾のイラストは電車で読むにはちょっと恥ずかしかったりしますが。
5位
2002年2月 講談社 1785円
内容紹介:家族小説の新境地。直木賞受賞後の初の長篇。ひきこもり、暴力をふるう息子。浮気を重ねる妻。会社からはリストラ寸前……死を決意した37歳の僕は、死んだはずの父子が運転する不思議なワゴン車に乗り込んだ。
100字レビュー:悔恨だけを何度も繰り返し見せ付けられてそれらを全て許してゆくことで、家族の成す道を探す。同い年の父なんて強引な設定をものともせず感動で包む構成力はさすが。やり直すことなんてできないから生きてけるって。
選評:これは2002年のベストテン系でいろんなところから声が上がってたような記憶があります。わたしは1年遅れで5位になんて置いてみました。「同い年の父親と友達になれるか?」という問いをなんの照れもなく発せられるのが重松清らしさか。個人的には恋愛小説よりこういう家族話のほうが泣けます。
6位
2002年9月 文春文庫 420円
内容紹介:重ねあった盃。並んで歩いた道。そして、二人で身を投げた海……。時間さえ超える恋を描く傑作掌篇集。女流文学賞、伊藤整賞W受賞。
100字レビュー:突き出した棘に刺さりに行くようなアイヨクの表題作が痛くて好き。不条理系の短編集にも関わらず「ああこれも愛だよな」というピリピリした安堵感がそれぞれの短編にあって。このバランスの有り無しが重要だと思う。
選評:短編集で、それぞれ味のある怪しげな川上弘美ワールドなんだけれども、やっぱりここは表題作の美しさかな。この人となら溺レてみたい、と切に思います。不条理なストーリーで正しく愛が描けるというのが著者の自信ですね。そういう意味では長編『いとしい』も同様の匂いがあるんですが、短編のほうが上手いです。
7位
2003年8月 河出書房新社 1050円
内容紹介:高校に入ったばかりの“にな川”と“ハツ”はクラスの余り者同士。臆病ゆえに孤独な二人の関係のゆくえは……。世代を超えて多くの読者の共感をよんだ第130回芥川賞受賞作。
100字レビュー:弾かれた者同士の惹かれる気持ち、「蹴りたい」としか表現できない気持ち。その微妙な処にポツンと落ちる文章、格段と力を増した感じ。それでいて「女子高生文体」も生きてるから口の端で笑うみたいなムード、良い。
選評:クラスに馴染めない女の子の身の丈にあった恋。デビュー作たる前作もそうでしたが、文章のリズムがすごく気持ちいいんですよ。素でアホっぽい女子高生文体なんですけど、きちんと計算されているはずです。そうでなきゃこんな呼吸にあったリズムにならない。タイトルの上手さも光ります。
8位
2003年9月 新潮社 1890円
内容紹介:年上のあの人を追って、18歳のカヲルは海を渡る。期待と絶望の間を行き来する、狂おしくもどかしい恋――。そんなある日、手強すぎるライバルが、突然現れた。親子四代が弄ばれた悲恋の運命に、カヲルは天性の美声を武器に立ち向かおうとするが……。恋は遂に、叶うのか? 『彗星の住人』に続く、〈無限カノン〉第二部。
100字レビュー:『彗星の住人』に続く「無限カノン」第二部。皆でびびるほどヤバくはない。恋敵が皇太子でロイヤル臭溢れるというだけの話。それでも裏声で想いを語るカヲルの生き急ぎ方で、恋愛小説として稀に見る力強さを備える。
選評:無限カノン第二部。第一部のように時代を跳躍するダイナミズムはないものの、日本を敵に回すカオルの恋が花開きます。恋する相手しか見えないという歪みを自覚するゆえの腹の括り方。だからカオルにとってはこれはタブーではないただの「想い」で、その想いを遂げさせたいという著者の思いは第三部に繋がる。
9位
2003年8月 講談社 1365円
内容紹介:芥川賞「パーク・ライフ」 山本周五郎賞「パレード」 最注目の新鋭!待望の受賞後第1作。<東京>の地図の上で交差する、男と女の5ストーリーズ。最高の連作長篇小説!
100字レビュー:それぞれにある日曜日の風景。生活のスケッチとしては平凡なのだが、裏ストーリーに当たる幼い兄弟の行く末が気になってるうちに引き込まれる。それがみんな繋がってるってことでさ。力説するんでなく素の顔の余裕。
選評:連作短編としていろんな日曜日の風景が描かれる。風景画ですよね。ラフなスケッチで力抜け切ってるんですが、それぞれ彩りがよい。裏ストーリーを仕掛けておく親切な造りも著者らしい。読み進めるうちにこちらのほうが気になってくるという。
10位
2003年4月 小学館 上・下巻各1600円
内容紹介:パラレルで進行する異なる二つの物語が、戦慄の衝撃的ラストへ向けて繋がっていく!構想から10年、執筆5年。渾身のノンストップ2000枚。気鋭の芥川賞作家は、本作品で、新たなる文学領域を切り拓いた!!
100字レビュー:失踪した作家を追う編集者の物語と、作家からFDで送られてくる小説が交錯する。半端な心理学とエンタメな探偵挿話が前半は辛いが、整合性が怪しくなるくらい勢いに溢れた後半はさすが著者の味だ。読み止んなくなる。
選評:著者渾身の作という意気込みがすごく伝わる。世界が裏返る瞬間の気持ちよさがあります。前半のもったいぶり方で投げ捨てずに最後までどうぞ。