読んだらすごかった本ランキング 2004 旅と現代文学。Award

2004年に読んだ90冊のなかから、これはすげぇと思った10冊。過去分

1位

舞城王太郎『阿修羅ガール』

表紙

2003年1月 新潮社 1470円

内容紹介:恋するアイコがガーリッシュに悩んでる間も世界は大混乱!殺人鬼はグルグルだし子供は街で大爆発!魔界天界巻き込んで、怒涛の傑作、今ここに降臨。

100字レビュー:混沌の街を粟立てる俺らが祭。恋する乙女を地で逝くアイコの精神の煉獄で、シャピーンて炸裂する寓意。真人間になれるように祈ろうじゃないか。終盤の辻褄合わせは稚拙ながら、前半の狂騒を掻き消す静寂が染み透る。

選評:2004年のナンバーワンはこれ。スウェーデンボルグかと思うような地獄めぐり。エンタメ勢が大挙して純文学フィールドに押し寄せている昨今ですが、そういう文脈を無視してもこの作品には並々ならぬ力がありました。時代を切り取る方法としてはこれが正解だと思います。

2位

赤坂真理『ヴァイブレータ』

表紙

2003年1月 講談社文庫 400円

内容紹介:ヴァイブレータ―振動するもの。あたしの中身は震えつづけている。アルコールと食べ吐きで辛うじて自分を支えているライターのあたしは、コンビニで知り合った男のトラックに乗りこみ、航路の道連れとなる。肌の温もりとセックス、重ね合う言葉。四日間の「旅」を描く、痛いほどに切実な、再生の物語。

100字レビュー:自分の中で振動する不可知の領域を抉じ開けるのは吐き気と体温。肌に浮き出てくる前の、奥にある温度。言葉がバラバラに解けてしまって表層的なものは何も要らなくて、コンビニで会った男と旅するしかなくなるのだ。

選評:「村上龍風」なんていったら怒られるでしょうか。村上龍的にはこのフィールドはやりつくしちゃったんでもう書くこともないんでしょうが、この痛みによって喚起されるものはまだあると思うのです。『ヴァイブレータ』自体もそんなに新しい作品ではないですけどね。

3位

西原理恵子『ぼくんち』

表紙

2003年4月 小学館 550円

内容紹介:ビンボーでも明るく生きる兄弟のもとへ、ある日突然に「はじめまして」とお姉ちゃんがやってきた! とっても愉快で、ちょっぴり哀しい姉弟3人の暮らしぶりを描いたサイバラワールド決定版。

100字レビュー:ポジティブな姉と成長する兄弟、ドブの底で泥食って生きる底辺の人間達の繊細にして感動的なドラマ。一人残らず幸せになってほしいという祈りが降り注ぐ。ホームレスにもチンピラにも捨てられた子にも捨てる親にも。

選評:名作ですね。いまさら読んで大泣きしましたよ。サイバラはエッセイ漫画ばかりを読んできたので、ストーリー漫画にはあまり期待してなかったんですけどね。西原ファンには何言ってんだというような話ですが。

4位

穂村弘/東直子『回転ドアは、順番に』

表紙

2003年8月 全日出版 1365円

内容紹介:―ねえ、どこにつながってるの、この夜は。言葉でどこまで愛しあえるか?鬼才vs女神 世紀の対決。

100字レビュー:恋を歌い、愛を詩う交換詩歌集。キラキラした想いの結晶が夏の残り香を連れてくる。台所から出てきたような語彙で折り重なる呼吸の密度は軽々と現実を超える。中盤の交歓の節が完璧だから、二人の行方が涙腺に響く。

選評:短歌でこれほど濃密に愛し合えるのだということを初めて知りました。二人ともその感覚の鋭さには目を見張ります。

5位

藤沢周『箱崎ジャンクション』

表紙

2003年10月 文藝春秋 1680円

内容紹介:もう死に場所さえない、この世の最果てを求めて―東京の光と影に苛まれる二人のタクシードライバーの終わりなき彷徨。

100字レビュー:二人のタクシードライバーが互いの車を交換して他人として走る。精神安定剤や離婚届が同乗しなくともそこは苛立ちと倦怠が充満する箱だ。自分以外誰もいない渋滞。暴走の予感を孕む文章の向こうに重い手応えがある。

選評:いかにも藤沢周という感じで、この「倦み方」の表明に全幅の信頼を置いています。どんづまった先で人が取るべき行動。

6位

目取真俊『魂込め』

表紙

2002年11月 朝日文庫 504円

内容紹介:戦争で焼かれた村の海辺で、アーマン(オカヤドカリ)に棲みつかれた肉体を離れて海をみつめる男の魂に「帰れ」と訴えかける女の声は届くのか…。現在と過去が交錯する沖縄の風景から甦る戦争の記憶。表題作「魂込め」を含む6編を収録した沖縄文学の新たな担い手による、芥川賞受賞後初の短篇集。

100字レビュー:現在よりもクリアに立つ沖縄戦の幻影。海亀が掘り出すイメージの色鮮やかさはもちろん、喉に入ったヤドカリの自在な寓話性が著者の強みだな。ラストが類型的であるにも関わらず息が詰まる「面影と連れて」もいい味。

選評:「沖縄作家が描く戦争」だったらもっと重くなってもいいと思うんです。そこにある種の軽みというか頬をなでる潮風が見えるので肩肘張らずに読める。これ大事なことです。

7位

川上弘美『おめでとう』

表紙

2003年6月 新潮文庫 420円

内容紹介:小田原の小さな飲み屋で、あいしてる、と言うあたしを尻目に生蛸をむつむつと噛むタマヨさん。「このたびは、あんまり愛してて、困っちゃったわよ」とこちらが困るような率直さで言うショウコさん。百五十年生きることにした、そのくらい生きてればさ、あなたといつも一緒にいられる機会もくるだろうし、と突然言うトキタさん……ぽっかり明るく深々しみる、よるべない恋の十二景。

100字レビュー:優しくって少しばかな私達が体現するねじくれて真っ直ぐな恋。ボタンを掛け違ったところにある不思議な浸透圧。同じ感情をいろんな方向から見つめたような短編群だ。「寒いです。おめでとう。あなたがすきです」と。

選評:ちょっと意外なところと思われるのかもしれませんが。バランスがちょうどいい。ハードコアなシュルレアリスムではなくって、拡散しながらも意味に手が届きそうなこの位置が。

8位

穂村弘『世界音痴』

表紙

2002年4月 小学館 1365円

内容紹介:僕は青春ゾンビ、僕は恋愛幽霊。末期的都市に生きる歌人、穂村弘(39歳・独身・総務課長代理)。寿司屋で注文無視されて、夜中に菓子パンむさぼり食い、青汁ビタミン服用しつつ、ネットで昔の恋人捜す。唖然呆然、爆笑そして落涙の告白的エッセイ。

100字レビュー:偽悪的ならずにこれほど自分の弱さを表明できる人を他にしらない。世界の中に入ることができない戸惑いの此岸。社員旅行でのエピソードなど同じ性向を持つ人は叫びだしたくなるはず。「僕はそうじゃない」と嘯いて。

選評:穂村弘、本年2冊目のランクイン。こちらはエッセイですが、正しく「唖然呆然、爆笑そして落涙」ですよ。これを読んで「この人は僕に似てる」って思いを新たにしたんです。

9位

町田康『猫にかまけて』

表紙

2004年11月 講談社 1680円

内容紹介:どうでもいいようなことで悲しんだり怒ったりしているとき、彼女らはいつも洗練されたやりかたで、人生にはもっと重要なことがあることを教えてくれた。写真と文章で綴る、猫たちとの暮らし。

100字レビュー:町田家の猫たちの極悪非道なる振る舞いを小気味良いリズムで論った腹筋にくるエッセイ。に留まらず、突然舞い込む死の予兆に対して人にできる事はなんだろうという考察が、笑みを引きずった頬に痛かったりする良作。

選評:猫を飼ってるのでグッときたんでしょうか。猫の気持ちも分かるし、町田の気持ちも分かる。もちろん猫飼いでない人にもオススメ。

10位

鴻上尚史『ハルシオン・デイズ』

表紙

2004年11月 白水社 1680円

内容紹介:インターネットの自殺系サイトで知り合った3人の男女が、「平穏無事な日々」を求めるあまり、妄想にとりつかれてゆく―。名作『トランス』のテーマを引き継ぐ。

100字レビュー:自殺系サイトで出逢った三人の今を生きる理由。『トランス』の主題を再変換した戯曲。寄り道なく結末へ走る分かりやすさ。笑えるオカマの分かりやすさ。月から帰ってくる光に照らされて、それが自分の光だと知る日。

選評:2004年のランキングなのに、2004年発行の本は9位10位のみという。こちらは新作戯曲ですが、こういう物語を体が欲してるんだな、ということが分かります。