読んだらすごかった本ランキング 2006 旅と現代文学。Award

2006年に読んだ116冊のなかから、これはすげぇと思った10冊。過去分

1位

重松清『疾走』

表紙

2005年5月 角川文庫 上巻660円、下巻620円

内容紹介:広大な干拓地と水平線が広がる町に暮す中学生のシュウジは、寡黙な父と気弱な母、地元有数の進学校に通う兄の四人家族だった。教会に顔を出しながら陸上に励むシュウジ。が、町に一大リゾートの開発計画が持ち上がり、優秀だったはずの兄が犯したある犯罪をきっかけに、シュウジ一家はたちまち苦難の道へと追い込まれる…。十五歳の少年が背負った苛烈な運命を描いて、各紙誌で絶賛された、奇跡の衝撃作、堂々の文庫化。

100字レビュー:暴力、犯罪、家族離散、ストーリーを語ると社会面ネタの盛合せみたいだが、少年の荷として重過ぎる運命に生を祈りたくなる。「一人一人」が駆け抜ける地獄を見てるだけの無力さで救われない。圧倒的読後感に吼えて。

選評:痛々しいシーンが多くて鳥肌立てながら読みました。落ち込みます。ずどんと。こうやってブルーになることもまた、本を読むことの喜びのひとつだ、という意見に納得できない方は読むべきではありません。

2位

梨木香歩『家守綺譚』

表紙

2006年9月 新潮文庫 380円

内容紹介:庭・池・電燈付二階屋。汽車駅・銭湯近接。四季折々、草・花・鳥・獣・仔竜・小鬼・河童・人魚・竹精・桜鬼・聖母・亡友等々々出没数多…本書は、百年まえ、天地自然の「気」たちと、文明の進歩とやらに今ひとつ棹さしかねてる新米精神労働者の「私」=綿貫征四郎と、庭つき池つき電燈つき二階屋との、のびやかな交歓の記録である。―綿貫征四郎の随筆「烏〓苺記(やぶがらしのき)」を巻末に収録。

100字レビュー:化かし狸も懸想する百日紅も河童も、薄墨の筆先から花々がぽんぽん飛び出るようなカラフルな水墨画。異界を語る言葉と雰囲気の作りこみが素晴らしく、不可思議でありながらすっと落ちる物語に安心してのめり込める。

選評:こちらは読んでて気持ちいい小説。ゆらゆらと立ち上る幽玄、和のムードもなんだか懐かしい気がしてきます。丁寧な仕事ぶりです。

3位

池澤夏樹『パレオマニア 大英博物館からの13の旅

表紙

2004年4月 集英社インターナショナル 2625円

内容紹介:ギリシャ、エジプト、インド、イラン、カナダ、イギリス、カンボディアなど、古代妄想狂を自称する男が大英博物館で気に入った収蔵品を選び、それが作られた土地を訪ねる。知的興奮に満ちた旅。

100字レビュー:100字レビュー:大英博物館の展示物に魅入られ、その歴史を邂逅して在りし地へ旅立つ。「専門家の手前、観光客の先」での掘り下げ方が絶妙にロマンをかきたてる文明論。同じパレオマニア(古代妄想狂)として旅に出たくって堪らない。

選評:池澤夏樹らしい、学術と趣味の中間をすっと通す作品。大英博物館、行きたいです。

4位

舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる。』

表紙

2006年8月 講談社ノベルス 945円

内容紹介:僕の好きな人たちに皆そろって幸せになってほしい。それぞれの願いを叶えてほしい。温かい場所で、あるいは涼しい場所で、とにかく心地よい場所で、それぞれの好きな人たちに囲まれて楽しく暮らしてほしい。最大の幸福が空から皆に降り注ぐといい。僕は世界中の全ての人たちが好きだ。(本文より)ゼロ年代デビュー、“ゼロの波の新人”の第一走者が放つ、「恋愛」と「小説」をめぐる恋愛小説。

100字レビュー:愛は祈りだ。不治の病で逝く恋人の物語から神と闘うSFのエピソードにぶっ飛んでっても、溢れる祈りで成立してる。泣けることで評判の巷の恋愛小説を「メタ化」しつくし、舞城流の小説論にもなっててうなづく部分多。

選評:こんなめちゃめちゃなストーリーでもちゃんと「愛」が表現されてて、誰もついてこない方向に進んでるのに自信がみなぎってます。

5位

古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』

表紙

2005年4月 文藝春秋 1800円

内容紹介:1943年、日本軍が撤収したキスカ島。無人の島には4頭の軍用犬が残された。捨てられた事実を理解するイヌたち。やがて彼らが島を離れる日がきて―。それは大いなる「イヌによる現代史」の始まりだった!

100字レビュー:犬の血統で紡がれる戦争の時代。政治的駆け引きや人間の愚をこの視点で描ききった奇抜さ。ハードボイルド系の文体が、配役たちに沈黙を強いて。年代記とヤクザの娘のパートとが絡みながら進行するがスピード感よし。

選評:なんでしょうね、このストーリーテリングの安定感。花村萬月と丸山健二を足して割った印象なのですが、どちらよりもスタイリッシュ。

6位

星野智幸『ファンタジスタ』

表紙

2006年4月 集英社文庫 600円

内容紹介:首相公選制がしかれた近未来の日本。投票を明日に控え、かつてサッカーのスタープレイヤーだった政治家・長田が圧倒的な支持率で最高権力者になろうとしている。人々はこの清新で危険なにおいのするカリスマに夢中だ。だが、果たしてこの選択は正しいのだろうか?わたしたちはどこへ向かっているのか?忍び寄るファシズムの空気を濃厚に描く、第25回野間文芸新人賞受賞の傑作小説集。

100字レビュー:カラフルな幻想の短編集。スポーツと政治がユニフォームを交換し合う近未来の表題作は、こんなに不愉快で健康的な夢は見たことない。移民の歌「砂の惑星」にしてもイメージも言葉も奔放かつ強固で、安心して入れる。

選評:6位にしてようやく純文学らしい小説を入れられました。

7位

椎名誠『銀天公社の偽月』

表紙

2006年9月 新潮社 1365円

内容紹介:脂まじりの雨が降る街を、巨大でいびつな形の人工月が照らし出す。朧に霞むしずかにやわらかい月だ。月の回転と連動して、補助軌道の歯車レールの上を人の乗るゴンドラがゆっくりと動いていく―。ここではないどこかで、あなたかもしれない誰かが、今日もひっそりと暮らしている。シーナワールド全開のファンタジックなストーリー。

100字レビュー:『武装島田倉庫』の嫡男はこいつだった。荒廃した世界をうごめく男たちを偽月が優しく照らす。脂雨の滑りが肌から取れない連作短編集。サイバーな匂いさえシーナワールドのなかでは自然物として定着してて。いいね。

選評:椎名SF、こういうのを待ってたのです。

8位

川上弘美『ニシノユキヒコの恋と冒険』

表紙

2006年7月 新潮文庫 460円

内容紹介:ニシノくん、幸彦、西野君、ユキヒコ…。姿よしセックスよし。女には一も二もなく優しく、懲りることを知らない。だけど最後には必ず去られてしまう。とめどないこの世に真実の愛を探してさまよった、男一匹ニシノユキヒコの恋とかなしみの道行きを、交情あった十人の女が思い語る。はてしなくしょうもないニシノの生きようが、切なく胸にせまる、傑作連作集。

100字レビュー:男の女性遍歴を十人の女性の側から語る連作短編集。幸彦の主体が無色に描かれている一方、女の愛し方は個性的なキュートさだ。ドンファンじゃなくって振り回してるのは女の方かも。始まって終わる恋の多様さに放心。

選評:ヒドイ男だなという受け取り方もあるようですが、僕は相手の女性のかわいさばかりが印象に残りました。

9位

目取真俊『群蝶の木』

表紙

2001年3月 朝日新聞社 1470円

内容紹介:公園の隅に置かれた男の死体をめぐる話「帰郷」、慰安婦ゴゼイと徴兵を拒否した昭正の切ない愛に生者と死者の声がかさなる「群蝶の木」、日常生活を反転させる不安をえがく「剥離」「署名」など、『魂込め』で川端賞・木山賞を受賞した著者があらたに到達した四つの小世界。

100字レビュー:オカシイのは私なのか?と「剥離」「署名」でじんわり染む平衡感覚の狂いは、生きる気力を失わせる不快度。猫好きにも辛いけど拍手すべき執拗さだ。ラストの表題作が救いなのかと思ったらこちらもダウナーで眩暈が。

選評:「署名」は思い出しても不愉快になりますね。不愉快というか怖い話なんでしょうけども。や、褒め言葉として。

10位

穂村弘『短歌という爆弾 今すぐ歌人になりたいあなたのために

表紙

2000年3月 小学館 1575円

内容紹介:冷たく無気味な世界のすみっこで、世界を覆す呪文を唱えよう。ロックシンガーのシャウトのように、君の短歌は世界の心臓を爆破する。都市を疾走する歌人、穂村弘が贈る、まったく新しいタイプのスーパー短歌入門。

100字レビュー:読むだけで生きる勇気が湧く不思議な短歌教本。煮えた感情を腐らす前に、歌を詠めばよかったんだと。出不精を押して同人にも参加したくなる。確かにこれ導火線だ。「構造図」の本格論は初心で読み砕くには重いけど。

選評:センスのよさに惚れます。言葉の選び方は歌人だから当たり前に(?)うまくて、短歌入門として使えるかどうかは分からないけど、読んでて楽しい。