読んだらすごかった本ランキング 2007 旅と現代文学。Award

2007年に読んだ91冊(少なかったな)のなかから、これはすげぇと思った10冊。なんだかほとんどが文庫、つまり古い作品。でもこれを参考に「読んでみよう」という方がいらっしゃったら、手に取りやすい文庫ばかりとも言えます。過去分

1位

松浦寿輝『半島』

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2007年7月 文春文庫 690円

内容紹介:勤めていた大学に辞表を出し、寂れた島に仮初の棲み処を求めた迫村。月を愛でながら己の影と対話し、南方から流れついた女と愛し合い、地下へ降りて思いがけぬ光景を目にし、現実とも虚構ともつかぬ時間が過ぎていく。この自由も、再生も、幻なのか? 耽美と迷宮的悦楽に満ちた傑作長篇。読売文学賞受賞作。

100字レビュー:日常から逃亡してやってきた小さな島で、幻覚的な体験をする男の長編。暗闇を走るトロッコ、ヴェトナム料理屋の娘、時間も空間も歪んで無限環となる。読者が期待するカタルシスをすべて回避するような文章に酔って。

選評:夢とも現実ともつかないこういう世界好きです。美しき妄想。登場人物全員が主人公の影で、いや、だから、やっぱり夢なんだろうか。心理学的分析も可能かというじっとりとした想念。仕事放り出して瀬戸内海の島々、暗い路地を探して放浪したくなります。

2位

古川日出男『サウンドトラック』

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2006年9月 集英社文庫 上巻600円 下巻630円

内容紹介:東京は異常な街に変貌していた。ヒートアイランド現象によって熱帯と化し、スコールが降りそそぐ。外国人が急増し、彼らに対する排斥運動も激化していた。そんな街に戻ってきた青年トウタと中学生ヒツジコ。ふたりは幼いころ海難事故に遭い、漂着した無人島の過酷な環境を生き延びてきたのだった。激変した東京で、ふたりが出会ったものとは―。疾走する言葉で紡がれる、新世代の青春小説。

100字レビュー:洪水と疫病の熱帯化した東京。崩壊を座して待てない無邪気な破壊神となって少年少女が暴走する。銃火器で、あるいはダンスで。衝動も思想も見えなくて要は人物造形の弱さなのかもしれないが、熱量がはんぱなくて是。

選評:どんどん加速する文体に乗っかって「わー」とか言ってるうちに最後まで押し流されてしまう。後ろを振り返ってみたらプロットごと崩壊した東京の残骸だけがあって。「文学的」から遠く離れて、でもこの濁流の先にしか文学はないぜっ。

3位

青山真治『ユリイカ』

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2002年6月 角川文庫 540円

内容紹介:バスジャック事件で人質となった運転手の沢井は、乗客の兄妹直樹・梢と共に助かるが、心に深い傷を負う。彼は街から失踪し、兄妹も母の家出、父の自殺後心を閉ざし二人だけの世界に引きこもってしまう。二年後、街に戻ってきた沢井は、兄妹の家に同居し家族のように暮らし始めるが、同じ頃連続して殺人事件が起き、そして―沢井がとった行動とは…。カンヌで世界の絶賛を浴びた映画作家が描く『癒し』と『再生』の叙事詩。デビュー作にして第十四回三島由紀夫賞受賞。早くも文庫化。

100字レビュー:バスジャック事件で生き残った運転手と子供達の、生きる意味を探す旅。映画監督が初めて書いた小説として、不慣れゆえに真っ直ぐに届いてしまう想いがあって、陰鬱ななかに救いが際立つ。傷はいつか癒えるものなの?

選評:映画を見ないで小説版だけ読んであれこれ考えてもだめなのかもしれないけど、中上健次に影響を受けたことがあからさまな、腰の重い文体にのめりこみます。

4位

舞城王太郎『みんな元気。』

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2007年5月 新潮文庫 420円 + 2007年6月 新潮文庫『スクールアタック・シンドローム』 420円

内容紹介:生きるということは、透明魔人をたくさん生み出していくことなのだ。空飛ぶ一家と家族の交換。額に書かれた自分の名前。バットでボコボコ僕のプリウス。学校襲撃絶対ノンノン!! 夢と嘘と優しさと愛と憎しみと悲しみと平和と暴力。どうして目に見えないものばかりが世界に満ちているのだろう? 21世紀型作家による5つの世界創造。

100字レビュー:愛とは何か?を探求し続ける舞城がひとつの形として示した「家族愛」。ぐいーんって空飛んだり猫がトトロになったり学校襲われたりするわけだが、それで立ち現れてくる愛が胸に迫るね。迎合しない態度は相変わらず。

選評:「こんなめちゃめちゃなストーリーでもちゃんと『愛』が表現されてて、誰もついてこない方向に進んでるのに自信がみなぎってます。」って昨年も4位の舞城王太郎『好き好き大好き超愛してる。』に対して評したんですが、同じ言葉をもう一度贈っておきます。

5位

川上弘美『光ってみえるもの、あれは』

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2006年10月 中公文庫 620円

内容紹介:ああ、やっぱり僕は早く大人になりたい―友がいて、恋人がいて、ちょっぴり規格はずれの「家族が」いて。いつだって「ふつう」なのに、なんだか不自由。生きることへの小さな違和感を抱えた、江戸翠、十六歳の夏。みずみずしい青春の物語。

100字レビュー:川上作品としてはわりと素直に少年の成長を見守る青春小説。登場人物には友達みたいな家族だとか女装する親友だとか、定型ながら不思議な綾がある。ハッピーエンドとも言えないのにこの爽やかな読後感はなんなんだ。

選評:川上弘美らしくはないんですけど、珍しくまっすぐな青春小説に拍手しておきます。ちょっと春樹っぽい。

6位

星野智幸『ロンリー・ハーツ・キラー』

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2007年4月 中公文庫 840円

内容紹介:黄砂舞うメトロポリス。この国を象徴する者が死んだ。ある出会いにより、世界の真実を幻視した「俺」がとった行動とは。さまよえる魂と国家の物語。

100字レビュー:若オカミ亡き後の混沌たる心中事件。三人の手記がこの島国のムードに活を入れる。パラレルワールドとしての近未来は天皇制を反射板にしてリアルの思索へ帰ってくる。「生の実感」のために登場人物も作家も闘ってる。

選評:なんというか不敬? 古川日出男や舞城王太郎とまた違って、「文学的」であることに意欲的で、頼もしさを感じます。

7位

東直子『とりつくしま』

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2007年5月 筑摩書房 1470円

内容紹介:あなたは何に「とりつき」ますか? 死んでしまったあなたに、とりつくしま係が問いかけます。そして妻は夫のマグカップに、弟子は先生の扇子に、なりました。切なくてほろ苦くて、じんわりする連作短編集。

100字レビュー:心を残して逝った人々がマグカップやジャングルジムや日記帳やらにとりついて、自分がいなくなった後の世界を見つめる短編集。愛した人を見つめるだけの寂しさと静けさと。しんと心拍数が下がっていくような文章で。

選評:唯一ランクインした「2007年に出た本」。死者が見つめる世界がこんなに慈しみにあふれたものだったとは。

8位

筒井康隆『パプリカ』

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2002年10月 新潮文庫 700円

内容紹介:精神医学研究所に勤める千葉敦子はノーベル賞級の研究者/サイコセラピスト。だが、彼女にはもうひとつの秘密の顔があった。他人の夢とシンクロして無意識界に侵入する夢探偵パプリカ。人格の破壊も可能なほど強力な最新型精神治療テクノロジー「DCミニ」をめぐる争奪戦が刻一刻とテンションを増し、現実と夢が極限まで交錯したその瞬間、物語世界は驚愕の未体験ゾーンに突入する。

100字レビュー:美人サイコセラピストが夢の中にジャックインして精神治療するサイバー系エンタメ。現実との境界が徐々に揺らいでゆくという予想できる展開ながら、怪物暴れまくりの終盤のスペクタクルは痺れるような想像力の渦だ。

選評:2006年末にアニメ映画になってて、まぁそんなタイミング。心理学的無意識の領域を、エンタメで魅せる力量に感心する。

9位

古川日出男『二〇〇二年のスロウ・ボート』

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2006年1月 文春文庫 500円

内容紹介:この文章は僕自身のエクソダス――『出トウキョウ記』であり、その失敗の記録だ。(本文より) 小学5年生の夏からはじまる3つのボーイ・ミーツ・ガール。トウキョウに突きつけるノオと、愛憎。それは三たびの喪失であり、三たびの敗北だった。言葉でビートをきざむ古川日出男がとどける愛のかたち。著者自身による解題を収録。

100字レビュー:村上春樹トリビュート作品。東京脱出に敗北し続ける僕と三人のガールフレンドたちのポップなクロニクル。山手線で失敗するエピソードだとか原作知ってると震えるような細部がちりばめられて、そのリスペクトを堪能。

選評:村上春樹好きなら大推薦。村上春樹を知らない人は?これ読んだ後に春樹も行ってください。

10位

中村航『リレキショ』

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2005年10月 河出文庫 515円

内容紹介:大切なのは意志と勇気。それだけでね、大抵のことは上手くいくのよ―“姉さん”に拾われて“半沢良”になった僕。ある日届いた一通の招待状をきっかけに、いつもと少しだけ違う世界が、ひっそりと動き始める。深夜のガソリンスタンドが世界を照らし出す、都会の青春ファンタジー。第三九回文藝賞受賞作。

100字レビュー:「姉さん」に拾われて暮らす青年が、一つ終わらせて一つ始める意志ある青春。深夜ガソリンスタンドで体操して星空へ祈る。過去を隠蔽することで不穏さを醸しながらも、軽やかな文体のなかに充満するこの幸福感は何。

選評:デビュー作らしい爽やかさ。若い。過去と途切れた今をこのくらい誠実に生きることができたなら。