清水義範『騙し絵日本国憲法』

しみずよしのり だましえにほんこくけんぽう

『騙し絵日本国憲法』表紙

1996年4月 集英社 317頁

1999年4月 集英社文庫 341頁

目次

  1. 二十一の異なるバージョンによる前文
  2. 第一章 シンボル
  3. 第二章 九条
  4. 第三章 ハロランさんと基本的人権
  5. 第四〜八章 寄席中継
  6. 第九・十章 亜葡驢団の掟
  7. 第十一章 場つなぎ
  8. 附録 日本国憲法

主な登場人物

袋井利克
医療機器メーカー課長。象徴天皇制について考える。
勝利
1946年を生きる子供。
水野れんげ
1996年を生きる子供。
ハロラン
日本国憲法に詳しい外国人。(『黄昏のカーニバル』収録「外人のハロランさん」に出てきた人だね)
森本ツクオ
受験生。ハロランと仲良くなる。
立法さんいん・しゅういん
漫才コンビ。演目は「国会問答」。
どこん亭行政
落語家。演目は「火焔内閣」。
ブラック司法
手品師。
金一財之助・政太郎
曲芸コンビ。
地方自治ブラザーズ
歌謡グループ。
亜葡驢団
掟に疑問が出始めた暴走族。

10字概要

真顔な道化の憲法読本

100字レビュー

表紙からして騙し絵なバキッと憲法を砕いて遊んだ書。「二十一の異なるバージョンによる前文」はパスティーシュ真骨頂。様々な文体で前文を読み上げるわけだが、松本人志「遺書」風があるのは何というか時代である。

1000字の賛辞

いつの時代にもさまざまな議論の尽きない我が国の憲法ですが(なんてマクラもどうかと思いますが)、ここまで遊んじゃったら気持ちいいですね。憲法という分かりやすい素材を使った、良質のパスティーシュ見本市になってます。あー、これがパスティーシュってものなのねって。まぁ、彼以外の作家に冠されたのは見たことないですし、知らなきゃ知らないで済む言葉なんですけども、パロディの面白さを生かした小説と思っておけば大枠オーケーです。

なんといってもここは「二十一の異なるバージョンによる前文」がすごいです。「憲法前文」という誰もが知ってる(ことになってる)題材を、いろんな文体で書き分けてます。長嶋茂雄口調であったり、パソコンのマニュアル体だったり、俵万智的であったり(憲法記念日!)しながら、それぞれに前文を読み上げるわけです。

「ところが、ここんとこ見てちょうだいこの日本国憲法だとほら、戦争とこの通りすっぱり縁が切れちゃうの。ほら、すぱすぱといくらでも切れちゃう」なんて実演販売風とか。西原理恵子をパロって憲法漫画まで書いてます、シミズ氏。単純に笑えます。あの緊縛プレイのような原文を笑い飛ばし、高らかにこう宣言するわけだ、「憲法は面白い!」と。

前文以下の章では、もちろん「九条問題」も扱ってます。暴走族が「オレたちのオキテ」を変えようとする過程を描き「憲法改正論議」を揶揄した小説もあります。なぜか突然寄席になっちゃったりもしてます。「短編集」と言える作りなのかどうか知りませんが、趣向が凝らされ、なかなかに読ませる短編が並びます。

いわば憲法論議と憲法自体をともに茶化しちゃってるわけですが、底辺には真面目なものが流れてます。かといって、基本的に「憲法にもの申す」という姿勢ではないんですね。もちろん著者にだって申したいことはいろいろあるでしょうが、日頃なされるような議論はひとまず置いておいて、「分かりやすく絵解く」ことに力点があります。面白いんだからみんなも読んでみようよ憲法、と。

一冊の本で、これだけの視点を提供しながら憲法が語られたことはないでしょう。憲法記念日は過ぎちゃいましたけども、読んでみて損はないはずです。

この時期の「物知り博士」風の、あるいは啓蒙者風の物言いがあまり好きでない人も、これはイケるのではないでしょうか。「騙し絵」と本人が言ってるのですから、騙されてみるのが得策ってものじゃないですか。