山川健一『ニュースキャスター』

やまかわけんいち にゅーすきゃすたー

『ニュースキャスター』表紙

2001年1月 幻冬舎 346頁

2002年2月 幻冬舎文庫 411頁

目次

  1. ニュースキャスター

主な登場人物

立花耕一
「ナイトステーション」メインキャスター。苦悩する主人公。
藤田裕子
アシスタントキャスター。
奥野香奈子
プロデューサー。立花の愛人。
沢田慎吾
報道部記者。
清田敦史
編成マン。
間宮昇一
医師を銃殺し逃亡。
元木佐代子
間宮に理解を示す看護婦。
立花卓也
耕一の息子。インターネットのアンダーグラウンドをさまよう。
菜穂子(チャイナ)
ハッカーの少女。
ピート・ハンクス
元パンクス。香奈子に求婚している。

10字概要

業界の披露と男の疲労

100字レビュー

テレビ報道という世界と、そこに関わる人々の闇を描いたノンフィクションノベル。医師殺害犯から番組に電話が掛かってくる。敬愛するキャスターに自分を知ってほしくて。人気キャスターの抱える荷物はこんなに重い。

1000字の賛辞

実験台にさせられていると思い込んだ男が、担当医師を射殺して逃亡する。「彼」だけは自分の正当性を分かってくれると敬愛するニュースキャスターへ連絡を取り、電話対話の生放送にも応じるが、視聴率至上主義の番組に踊らされただけだと逆恨みして「彼」追い詰める。

というストーリーがあるため「クライム・ノベル」なんてオビに書いてあるわけですが、犯罪者の手口なり心理なりよりはニュースキャスターの葛藤に焦点が当たってます。だからこれは「ノンフィクション・ノベル」として読んだほうが面白いと、一読者としては思います。

「本作品は現実の事件・人物・団体を素材にしておりますが、すべては著者によるフィクションであることをお断りいたします」という奥付の注記を引いておけばその性格は分かるかと思いますが、ノンフィクション的にリアルな細部と、小説としての重厚な心理描写を同時に獲得している。事実は小説よりうんぬんではなくって、どこまでが事実でどの部分が小説なのかすら分からない緊迫した展開となってるわけです。

主人公のキャスター「ナイトステーションの立花耕一」には、読めば誰にでも分かる形でモデルが設定されています。夜10時の人気ニュース番組のキャスターとして年間億を稼ぐあの人です。もちろん取材に基づいているんでしょうが、ここまで書いていいのかってくらいに深く心理へ潜ってゆきます。いや、スキャンダラスな意味ではないんです。文学的な場においての人物造形がすごいです。例えばこんな表現。

「睡魔に襲われ、意識が朦朧としてくる頃、立花は絞ったタオルで拭いてやった父親の亡骸を思い出しながら、自殺などしなくても人間はやがて死ぬのだと、あきらめるように思うのだった。」

こんなことを考えているんだ、と「誤解」させるに充分な表現です。毎晩テレビで顔をさらす生活に疲れ始めた男の虚像と実像。「小説」であることによってその虚像と実像は、さらに二重写しのものとなって広がります。

自民党の梶山幹事長(という名の登場人物です。念のため)が圧力をかけて番組スポンサーを降ろした噂とか、他局を出し抜いた5時57分からニュース本編をオンエアする画期的編成プランだとか、テレビ業界の裏事情みたいなものも書き込まれています。立花の息子とハッカーの少女が出会うくだりも刺激的です。

どの場面も、まるで現実のもののように映像が浮かびます。その不思議な感覚を楽しんでみてください。