高橋源一郎『日本文学盛衰史』

たかはしげんいちろう にほんぶんがくせいすいし

『日本文学盛衰史』表紙

2001年5月 講談社 598頁

2004年6月 講談社文庫 660頁

目次

  1. 死んだ男
  2. ローマ字日記
  3. ローマ字日記・続
  4. 若い詩人たちの肖像
  5. 若い詩人たちの肖像・続
  6. 若い詩人たちの肖像・続々
  7. A LETTER FROM PRISON
  8. A LETTER FROM PRISON・続
  9. 硝子戸の中
  10. 平凡
  11. HANA-BIみたいな散歩
  12. 『蒲団'98・女子大生の生本番』(1)
  13. 『蒲団'98・女子大生の生本番』(2)
  14. 『蒲団'98・女子大生の生本番』(3)
  15. 『蒲団'98・女子大生の生本番』(4)
  16. 我々はどこから来たのか、そして、どこへ行くのか(1)
  17. 我々はどこから来たのか、そして、どこへ行くのか(2)
  18. 我々はどこから来たのか、そして、どこへ行くのか(3)
  19. 我々はどこから来たのか、そして、どこへ行くのか(4)
  20. 原宿の大患(1)
  21. 原宿の大患(2)
  22. 原宿の大患(3)
  23. されど我らが日々(1)
  24. されど我らが日々(2)
  25. されど我らが日々(3)
  26. されど我らが日々(4)
  27. されど我らが日々(5)
  28. 本当はもっと怖い『半日』
  29. WHO IS K?(1)
  30. WHO IS K?(2)
  31. WHO IS K?(3)
  32. WHO IS K?(4)
  33. やみ夜(1)
  34. やみ夜(2)
  35. ラップで暮らした我らが先祖
  36. 三四郎
  37. 文学的な、あまりに文学的な
  38. そしていつの日にか
  39. 歴史其儘と歴史離れ
  40. 帰りなん、いざ……
  41. きみがむこうから……

主な登場人物

石川啄木
伝言ダイヤルにはまる。
夏目漱石
『こころ』に謎を仕込む。
島崎藤村
海辺で青春する。
国木田独歩
「HANA-BI」を見に行く。
田山花袋
アダルトビデオを監督する。
森鴎外
「チャー・シュー・メン!」とゴルフクラブを振るう。
樋口一葉
オープンカーに乗って現れる。
高橋源一郎
胃潰瘍で死にかける。

10字概要

ぼくらが文学だった頃

100字レビュー

これまでの仕事を集大成する長編小説。田山花袋が「露骨なる描写」を求めてアダルトビデオを監督したり、明治を通して現在を切り刻むような気概に溢れている。『こころ』の謎に迫る章はそれだけで瞠目すべき論文だ。

1000字の賛辞

集大成的です。『ゴーストバスターズ』でのロマンティックな時代跳躍、『文学なんかこわくない』での真摯な文学持論、『あ・だ・る・と』での日なたのセックス、近年の作品でやろうとしてきたことが全部入ってます。これを長編小説として仕上げてくれたことに頼もしさを感じます。

タイトルどおり、日本文学の歴史を(正確には二葉亭四迷に始まった近代文学の流れを)総ざらいして、現代の文学状況を照らすような作品です。

物語は四迷の死から始まるんですが、葬儀に出席した夏目漱石が森鴎外に頼み事をするシーン。「たまごっち」を手に入れることはできませんか、と。ここで「ふざけてる!」と立腹してしまうような人は読み止めたほうがいいと思われます。残りの600頁は腹立ちの連続となるでしょうからね。だって石川啄木が朝日新聞社での業務後に夜な夜なブルセラショップのバイト店長してたりするんですから。イカンでしょ。

いや、でも、そうじゃないんですよ。すなわち彼らが現代に生きていてくれたらという熱い想い、あるいは逆に、自分も彼らの時代を生きたかったという作家的熱望。言うなら文学への愛ですので。

伝記風とか論文調とか、章ごとに色彩を変えながら中心へと迫ります。「この作品でついに、文学という謎を解き明かしてくれるのではないか?」と期待は高まります。果たしてそいつは解き明かされたのか?

「だって、これは小説だぜ。文学的すぎるといわれてもなぁ、文学的すぎて当たり前じゃないか」

「でも、先生は『露骨なる描写』をやりたいとおっしゃった。先生がほんとにやりたかったのは『露骨なる描写』ですか、それとも文学ですか」

「だから『露骨なる描写』に基づいた文学だよ」

「ということは、文学で『露骨なる描写』ができるとお考えなのですか?」

ああ、ちょっと長く引用してしまいましたけど。しびれてしまうのですよ、こういう直截な物言いに触れると。論文として書かれたんじゃだめで、小説であるからしびれるんです。ちなみに田山花袋がアダルトビデオ『蒲団'98・女子大生の生本番』を監督し、叩き上げのAV監督に追いつめられる場面なんですがね。

後半、もう全部解き明かしたんだというように、文章は理論から情緒へと推移してゆきます。このあたりは意見が分かれるところでしょうが、加速度的に美しくなる文体に僕なんかは大喜びなんですけれどね。安っぽい函に入ってても構いやしません。そんなわけでおすすめです。