いとうせいこう『解体屋外伝』

いとうせいこう かいたいやがいでん

『解体屋外伝』表紙

1996年7月 講談社文庫 451頁 品切

1993年7月 講談社 352頁 品切

目次

  1. 盲目王の脱出(ブラインデッド・エクソダス)
  2. 命令旋律(コマンド・メロディ)
  3. 人格溶解(パーソナリティ・メルトダウン)
  4. 重工業的反撃(ノスタルジック・キル)
  5. 多層化暗示格子(マルチプル・サイ・マトリックス)
  6. 目覚めの鳥(アウェイクニング・バード)
  7. 遠隔解体(テレ・デプログラム)
  8. 求心的逸脱(オフ・ザ・トラック・トゥ・ハードコア)
  9. 高速洗濯(コイン・ランドリー)
  10. 神経洞窟(ニューロティック・ケイヴ)
  11. 醜悪な虹(アグリー・レインボウ)
  12. 徹底操作(パーフェクト・リリース)
  13. 意味細菌(ミーニング・ウィルス)
  14. 意識下の戦争(サイキック・パンク)
  15. 不可知の静寂(サイレント・コントロール)
  16. 世界暗示(オリジナル・ランゲージ)

主な登場人物

解体屋
洗脳外し屋。
真崎知香
精神科医。解体屋とともに闘う。
ソラチャイ
若き精神科医。解体屋の弟子となる。
錠前屋
解体屋の師。
ノビル
九官鳥のような声を持つ子供。

10字概要

解体される言葉の魔力

100字レビュー

『ワールズ・エンド・ガーデン』に登場した解体屋を主人公とした長編。洗濯屋と解体屋の壮絶なサイコ・バトルが繰り広げられる。ギブスンの名を知らずとも楽しめる電脳空間。「暗示の外に出ろ」。なんてカッコイイ。

1000字の賛辞

サイバーパンクです。あっ待って逃げないで。傑作『ワールズ・エンド・ガーデン』の外伝にあたる作品で、造りはかなり異なっているのですがどちらも必読なんですよぅ。

「洗濯屋(ウォッシャー)」と呼ばれる洗脳のプロとのサイコ・バトルに敗れ精神を壊されてしまった洗脳外しのプロ「解体屋(デプログラマー)」が、自分を壊した相手を探しだし復讐するストーリーです。脳内にジャックインするシーンだとか、精神洞窟(ニューロティック・ケイヴ)、自己洗脳(セルフ・ウォッシュ)など造語にカナルビを振りまくるセンスだとか、いわゆるサイバーパンクと呼ばれるジャンルの顔をしています。

最もアシッドな色をしてるのはサイコ・ダイブのシーンだと思うんですが、ここはサイバーに抗体のない人にはちょっと難解かもしれませんね。自分の精神を三つに分割して「戦闘者(ハッカー)」「操作者(マニピュレータ)」「マザーコンピュータ」とそれぞれの役割を担わせる。脳内世界にジャックインしてゆく戦闘者はなんだか僕には「ジョジョの奇妙な冒険」のスタンドみたいなイメージになってしまうんですが、そういう意味でのベタベタにサイバーな部分もあります。

でもそれはあくまでも容れ物であって、ここでの主題は「言葉」なんです。言葉は解体屋の武器であると同時に、著者が仕掛けた読者へのプログラムでもあります。ストーリーそのものよりも、各所に配置されている言葉の爆弾にこそ、この作品の魅力があります。

注意していないと読んでいるだけでマインドコントロールされてしまうんじゃないかという危険すらあります。そんな匂いをかもす小説は他にお目にかかったことがないので。

「暗示の外に出ろ」と声を発することによって自らに暗示を掛けるような複雑な心理操作、古今東西のテキストを縦横に引用しながら情景を模してゆくような(逆説的な)自己確認だとか、もう読み止まらないです。

特に師である錠前屋(プロテクター)からのCDと疑似会話(フェイク・トーク)するシーンにイカレました。説明しにくいんですが、アミダクジなんです。説明になってねぇな。

しかもこんなにハードSFな内容でありながら、解体屋は愛すべきコミカルさで描かれています。状況にそぐわないジョークも飛ばします(状況を解体するために発せられてるのですが)。それがため文章の速度がすごく心地よくなってて最後まで楽しく読めます。ギブスンを読んだことがないって人にもおすすめです。