村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』レビュー

書誌情報

村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』表紙
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年しきさいをもたないたざきつくるとかれのじゅんれいのとし
2013/04
NDC:913 | 文学>日本文学>小説 物語
目次:色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

レビュー

「乱れなく調和する親密な場所」から疎外された理由を、16年後に追う巡礼の旅。主人公の造形、その背を押す巫女的女性など春樹らしくも類型的で、足踏み感もあるけど、磨ききった言葉で切り込む内省が瑞々しい色彩。
読了:2013/04/21

長めの感想

話題の新作ですけど、予約だけで増刷御礼というような種類の小説ではぜんぜんない。こんなに静的な、内省的な作品を多くの人が喜ぶようには思えません。

「意欲的長編」と「挑戦的長編」の合間にあって、跳躍のウォーミングアップをしてるような長編で、『アフターダーク』みたいな色味に思えました。その割には(というべきか)昔慣れ親しんだモチーフだったり構造だったりが昔のまま採用されてるように感じられ、「やっぱり春樹の作風って好きだな」と再認識する一方で、「え、そこへ戻ったの?」とも思いました。過去の作品をどれだけ読んでるか(どれくらい好きだったか)によって受け取られ方は変わるかもしれない。

失われ、損なわれてしまったものと、あるがままに受容する主人公と、孤絶のなか、外からこじ開けにやってくるおせっかい者と。彼の描く痛みが、自分の感じている痛みそのものだと思っていた時代から20年もたって、やっぱり胸に残った痛みに喜ぶ40歳の春。新境地も楽しみだけど、これはこれで楽しめました。

あと春樹の影響で、昔カティーサークばかり飲んでたことを思い出しました。作品の感想ではないけども。

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