トップ > 現代文学100字レビュー > 日本作家(あ行) > 新井千裕
言ってよければ80年代的で群像的。事実そうなんだけど。当時の広告業界が志向してた先が見えるかもしれないが今となっては。「ストーリーは無用」系小説として細部は丁寧だし、ちゃんと暖かい落とし所なので安心を。
彼女の失われた記憶を取り戻すため、言葉の遊園地へもぐりこむ。平行して10年後の田舎で暮らす二人が描かれるのだが、この未来の方が彼女の思い出にも見えてくる。文字遊びが過ぎるが所々心がしんとするものはある。
亀に向かってしか喋れない病いをもった男が奇妙な治療を受ける。引きこもりが外部を獲得する過程といった評し方もできるのだろうが、ここでは言葉が全て。言葉の響きだけで構成された小説群だ。クスクス笑いの連続。
「消える妻」という文学ジャンルが存在するかのようにきっぱりと消える妻。理由も分からず探す主人公に、父の愛人や売春クラブが絡む。「ブルー」と東京タワーの関係が美しく成就するのと、料理が旨そうなのが救い。
世界不信の女の子と動物偏愛の男のもとに円盤に乗ったカンガルーがやってきて、人類滅亡の危機を告げる。人を食った話ながら遊びが少なく、やや半端なユルさ。ビデオカメラやパチンコなど小道具ともっと絡まないと。
8年ぶりの小説。携帯詩人と逆上がりと村おこし、奇妙な小道具を違和感なく積み重ねてゆくテンポのよさは相変わらず。普通はもう少し説明が要る部分もすっ飛ばすので宇宙の果てに思いを馳せるのは読み終わった後に。