池澤夏樹の100字レビュー(1980〜92)

池澤夏樹書評ページ

『サーカムナヴィゲイション』

表紙

発行
1980年12月 イザラ書房 66頁 絶版 購入
共著
共著:英隆
NDC
914(日本文学>評論 エッセイ 随筆)
目次
海辺の墓地 / 島に住む人々 / 遠い地名を戴く品 (ほか)
評価
★★★

海と人間の関係を問い直す論考。『夏の朝の〜』の舞台となるマーシャル諸島の歴史だとか潮と塩の字義的解釈だとか、いろんな角度から考え、海を血液として体内に閉じ込めた僕たちという立場で、その共生を説く名文。

『スティル・ライフ』

表紙

発行
1983年2月 中央公論新社 187頁 絶版 購入
発行
1991年12月 中公文庫 212頁 500円 購入
NDC
913(日本文学>小説 物語)
目次
スティル・ライフ / ヤー・チャイカ
評価
★★★★

詩のような導入と「チェレンコフ光」で頭から意表を突く芥川賞受賞作。佐々井の仕事などどろどろした現実なのだがこの透明感は理系作家の真骨頂。文章の科学的美しさ。恐竜との暖かな暮らし「ヤー・チャイカ」併録。

『夏の朝の成層圏』

表紙

発行
1984年9月 中央公論新社 243頁 絶版 購入
発行
1990年5月 中公文庫 255頁 620円 購入
NDC
913(日本文学>小説 物語)
目次
夏の朝の成層圏
評価
★★★★★

無人島に漂着した男を通して痛烈な文明批判が展開される傑作長編。舞台が南島だけあって実に明るくさわやかに物語は進む。自然との一体感、という彼の著作共通の主題が(あるいは彼の人生観が)最大限に生きる作品。

『闇の中の眩しい天国』

表紙

発行
1985年3月 北栄社 206頁 絶版 購入
発行
1988年4月 中公文庫(数編を追加、『シネ・シティー鳥瞰図』と改題) 296頁 絶版 購入
NDC
778(演劇・映画>映画)
目次
誰が映画を見るのか / アメリカとヴェトナムの間『地獄の黙示録』 / 宇宙人との交際について『未知との遭遇』 (ほか)
評価
★★★

『地獄の黙示録』に関して「二度見ればわかるというのは製作者が口にすべきことではない。甘ったれては困るのだ」と力強い言葉もあったりする映画評論。詳細な分析と緩みのない文章が冴える。文楽や音楽についても。

『見えない博物館』

表紙

発行
1986年9月 小沢書店 211頁 絶版 購入
発行
2001年6月 平凡社ライブラリー 245頁 品切 購入
NDC
914(日本文学>評論 エッセイ 随筆)
目次
海の破片 / 見えない博物館
評価
★★★

前半の海の文章は『サーカム〜』の丸ごと再録。後半では表題どおり博物学的趣味が炸裂するエッセイ集。コレクターの熱情とその風景の美学がある。蝶の標本の風化具合が目に見えるようだね。民族博物館は物哀しいし。

『ブッキッシュな世界像』

表紙

発行
1988年3月 白水社 288頁 絶版 購入
発行
1993年10月 白水社(新装版) 288頁 絶版 購入
発行
1999年8月 白水Uブックス 254頁 945円 購入
NDC
904(文学>論文集 評論集 講演集)
目次
現代 / アメリカ / 諸国 (ほか)
所要
4時間20分
評価
★★★

ピンチョン、サリンジャーなど世界文学をナビゲイトする書。特にガルシア=マルケス『百年の孤独』については家系図、プロット概説なども作成されてて読解サブテキストとして最適。文章のリズムは硬いんだけれども。

『真昼のプリニウス』

表紙

発行
1989年7月 中央公論新社 235頁 絶版 購入
発行
1993年10月 中公文庫 265頁 620円 購入
NDC
913(日本文学>小説 物語)
目次
真昼のプリニウス
評価
★★★★★

火山学者として浅間山に迫る頼子。電話からランダムに話が流れるシステム「シェヘラザード」。非現実的な対話と予言が科学者たる彼女を揺さぶり疑念を抱かせる。科学と物語の狭間という構図は著者の作風そのものだ。

『ギリシアの誘惑』

表紙

発行
1989年12月 書肆山田 209頁 1886円 購入
NDC
915(日本文学>日記 書簡 紀行)
目次
アテネ物語 / ギリシア 夏 / ギリシア 冬 (ほか)
評価
★★★

風土、歴史と遺構、文学と、ギリシャの深さを語るエッセイ。実際に著者が住んだ土地でもあるし、細部まで洗う性癖と相まって「僕にはこう見える」系紀行としての完成形だ。廃屋のテラスでワイン片手に物思う詩人だ。

『バビロンに行きて歌え』

表紙

発行
1990年1月 新潮社 248頁 絶版 購入
発行
1993年5月 新潮文庫 295頁 460円 購入
NDC
913(日本文学>小説 物語)
目次
夜の犬 / 老獣医 / ブルー・プレート (ほか)
評価
★★★

国を逃れ日本へ上陸した若い密入国者。気づけば音楽をやっている。ロックバンド物語になっている。誰もが他人で、当たり前に孤独だ。人や異文化とぶつかって溶け合う時に出る不協和音、傷つきやすくて強いのが青春。

『インパラは転ばない』

表紙

発行
1990年6月 光文社 157頁 絶版 購入
発行
1995年6月 新潮文庫 198頁 絶版 購入
NDC
914(日本文学>評論 エッセイ 随筆)
目次
うしろの正面 / 曲り角で待っている / 遠いホテルへの道 (ほか)
評価
★★★

旅のエッセイ集。ちょっとしたエピソードを思いつくまま無作為に並べたような作りだが、硬派に旅が好きなんだなって伝わる。無為でいることの喜びを知ってる人だ。もちろんそれを押し売ったりなんてしないわけだが。

『マリコ/マリキータ』

表紙

発行
1990年7月 文藝春秋 220頁 絶版 購入
発行
1994年4月 文春文庫 237頁 絶版 購入
発行
2006年5月 角川文庫 231頁 500円 購入
NDC
913(日本文学>小説 物語)
目次
マリコ/マリキータ / 梯子の森と滑空する兄 / アップリンク (ほか)
評価
★★★

初の短編集。「帰ってきた男」が秀逸。未知の遺跡探検からただ一人生還した男、人間存在のあり方を揺さぶる体験をした彼は口を閉ざし、アラベスクを描く。そこで一体何が起こったのか? 精緻なる叡智の調べを聞け。

『読書癖1』

表紙

発行
1991年1月 みすず書房 225頁 2100円 購入
NDC
019(図書館・図書館学>読書 読書法)
目次
長い歴史の楽しみ方 / 球場の雰囲気 / 裸体のストーリー性 (ほか)
評価
★★★

ひとつの性癖のように本を読む、活字中毒者の告白。書評を中心に本周辺の話題ばかりのエッセイ集。対象は多様で地図や理科年表なんかも扱うのが著者らしい。仕事でも本を読み、休息に本を読む、因果な商売なことだ。

『南鳥島特別航路』

表紙

発行
1991年3月 JTBパブリッシング 253頁 絶版 購入
発行
1994年3月 新潮文庫 255頁 絶版 購入
NDC
915(日本文学>日記 書簡 紀行)
目次
五島列島のミニ火山群 / 内間木洞の暗黒体験 / 白峰、炉端で聞く豪雪の話 (ほか)
評価
★★★

日本にまだ残る雄大な自然をめぐった紀行文。白神山地や八重山諸島など、地理あるいは地学の勉強をしているような学術的論考の多い旅です。人間なんて「壊す」だけの邪魔者なんですね、そこじゃ。哀しいことですが。

『読書癖2』

表紙

発行
1991年6月 みすず書房 233頁 2100円 購入
NDC
019(図書館・図書館学>読書 読書法)
目次
謎のニサツタイ / 旅先で地名に出合う / 鎧の中はからっぽ (ほか)
評価
★★★

書評エッセイ第二弾。ベルリンの壁崩壊を伝えるテレビニュースの前で、あるいは旅の途上で、自然に思い出される一冊の本。こんなにも豊かな読書人生。巻末、『存在の耐えられない軽さ』への長い評論は読み応えある。

『エデンを遠く離れて』

表紙

発行
1991年6月 朝日新聞社 230頁 絶版 購入
発行
1994年7月 朝日文芸文庫 237頁 絶版 購入
NDC
914(日本文学>評論 エッセイ 随筆)
目次
一億年前の鳥の赤い顔 / 荒野に向かうペットたち / 星の数ほどたくさんの世界 (ほか)
評価
★★★★

科学的考察を主眼としたエッセイ集。宇宙、恐竜、異常気象に領土問題と多岐に渡るが、生活の中の素朴な好奇心から出発しているので難解ではない。作家的潤いのある文章でお勉強臭はまったくないので安心して読める。

『越境者たち 人が動く、世界が動く

表紙

発行
1991年6月 TBSブリタニカ 229頁 絶版 購入
共著
共著:石川好/足立倫行/ねじめ正一/大竹昭子/吉増剛造/生井英考/吉岡忍/関川夏央ほか
NDC
915(日本文学>日記 書簡 紀行)
目次
フラワー・ロード / 甦るか?!ベトナム / 香港金銭感覚旅情 (ほか)
所要
2時間
評価
★★★

9人の作家9人の写真家によるシリーズルポ。国境を越えて暮らす人々に焦点が当たっているのだが、章によってはただの紀行文だったりはする。吉増剛造はやっぱり詩人だなとか作家ごとに癖のある文章を楽しむのもいい。

『タマリンドの木』

表紙

発行
1991年9月 文藝春秋 210頁 絶版 購入
発行
1999年1月 文春文庫 221頁 品切 購入
NDC
913(日本文学>小説 物語)
目次
タマリンドの木
評価
★★★★

恋愛小説。カンボジア難民キャンプで働く女性と惹かれあう男。男は日本へ帰ってきて欲しいと願い、女は仕事に生きがいを感じている、という言わば逆パターン。「不在感」に苦しむ感情はこちらまで伝播して胃が痛い。

『南の島のティオ』

表紙

発行
1992年1月 楡出版 285頁 絶版 購入
発行
1996年8月 文春文庫 254頁 470円 購入
NDC
913(日本文学>小説 物語)
目次
絵はがき屋さん / 草色の空への水路 / 空いっぱいの大きな絵 (ほか)
評価
★★★

意味のない分類とは知りつつも児童文学です。子供達に夢を与えるようなキラキラ輝く短編集。南の島を舞台に不思議な文学世界となっている。これで「読書感想文」を書いた子供達はどんな青年期を迎えているのだろう。

『きみが住む星』

表紙

発行
1992年10月 文化出版局 97頁 1050円 購入
共著
写真:エルンスト・ハース
NDC
913(日本文学>小説 物語)
目次
最初の手紙 / 朝焼けコレクター / 花を踏まない馬 (ほか)
評価
★★★

旅に出た男が、その帰りを待つ人へ送る絵葉書。愛する人が住むこの星は美しいと確認するように、ハースが映し出した世界を漂う男は風景のすべてに「きみ」を見出す。幸せのなかで発せられる「バイバイ」が耳に残る。

『母なる自然のおっぱい』

表紙

発行
1992年10月 新潮社 259頁 絶版 購入
発行
1996年2月 新潮文庫 294頁 絶版 購入
NDC
914(日本文学>評論 エッセイ 随筆)
目次
ぼくらの中の動物たち / ホモ・サピエンスの当惑 / 狩猟民の心 (ほか)
評価
★★★★

自然と人間の関係を静かに見つめたエッセイ集。環境保護を声高に訴えるのではなく、自然のカタチとそこに住む動物、その一種であるヒトの姿を描写することで、実効的な環境論となっている。科学的考察としても強固。

池澤夏樹書評ページ