池澤夏樹の100字レビュー(1993〜97)

池澤夏樹書評ページ

『マシアス・ギリの失脚』

表紙

発行
1993年6月 新潮社 535頁 絶版 購入
発行
1996年6月 新潮文庫 632頁 820円 購入
NDC
913(日本文学>小説 物語)
目次
マシアス・ギリの失脚
評価
★★★★★

親日家の独裁者が支配する呪術的南島。日本からの慰霊団を乗せたバスが突然消滅し、独裁者は島の霊力に沈み始める。遠い祝祭。広大でシビアな物語世界に、バス・リポートの軽妙さが救いだが、それゆえ救いなく重い。

『楽しい終末』

表紙

発行
1993年7月 文藝春秋 369頁 絶版 購入
発行
1997年3月 文春文庫 403頁 品切 購入
NDC
914(日本文学>評論 エッセイ 随筆)
目次
序−あるいは、この時代の色調 / 核と暮らす日々 / 核と暮らす日々(続き) (ほか)
評価
★★★★

核、環境汚染などのデータを慎重に閲し我々の未来を考察するエッセイ。最初は終末への悲観論に反駁すべく勉強したという著者も「悪い材料が多すぎ」ある種の警鐘を鳴らさざるをえなくなっている。答えはどう出るか。

『沖にむかって泳ぐ 池澤夏樹ロング・インタヴュー

表紙

発行
1994年2月 文藝春秋 252頁 絶版 購入
共著
共著:新井敏記
NDC
914(日本文学>評論 エッセイ 随筆)
目次
読む幸福と書く不幸 / 心優しき伴走者 / 架空の土地を物語る (ほか)
所要
3時間50分
評価
★★★

『マシアス・ギリの失脚』を書き上げて気力漲ってる頃に、頭の中を整理するための長いインタビュー。自分の書くべき小説はこれだと、作家としての初期のスタンスは揺るぎない。彼流「恋愛小説」の捉え方も興味深い。

『イスタンブール歴史散歩』

表紙

発行
1994年5月 新潮社とんぼの本 119頁 1470円 購入
共著
共著:澁澤幸子
NDC
292(地理・地誌・紀行>アジア)
目次
スルタナメット広場を中心に / ディワン通りからファティフへ / サライ・ポイントから金角湾沿いに (ほか)
評価
★★★

旅行ガイド的に図録なんかも入りつつ、歴史や建築なんかを解説。澁澤がメインで街を紹介し、池澤がアジアあるいはギリシャ・ローマの影響が雑多に入った風俗を語る。おまけ的だけれども。単純にモスクは美しいよね。

『むくどり通信』

表紙

発行
1994年5月 朝日新聞社 213頁 絶版 購入
発行
1997年3月 朝日文芸文庫 217頁 絶版 購入
NDC
914(日本文学>評論 エッセイ 随筆)
目次
行儀のいいクレーン / ワサビ大量収穫事件 / さらば南西航空 (ほか)
評価
★★★

特にテーマもないエッセイ集。シリーズ化されているし、彼における「村上朝日堂」なのかもしれない。その第一弾。『ノルウェイの森』で直子が歩いたコースを実際に辿る一文が興味深い。なるほどこうやればいいのか。

『クジラが見る夢 ジャック・マイヨールとの海の日々

表紙

発行
1994年8月 テレコムスタッフ/七賢出版 ?頁 絶版 購入
発行
1998年4月 新潮文庫 233頁 絶版 購入
共著
写真:高砂淳二/垂見健吾
NDC
785(スポーツ・体育>水上競技)
目次
バハマ沖 / サウス・ケイコス / シルバー・バンク
評価
★★★

素潜りの世界記録保持者ジャック・マイヨールを訪ねる。本来的な意味で彼はイルカと友達だ。タイトルどおりクジラも登場するがイルカの愛らしさが際立つ読み物。豊富な写真は青い海が美しく、これだけでもお買い得。

『骨は珊瑚、眼は真珠』

表紙

発行
1995年4月 文藝春秋 243頁 絶版 購入
発行
1998年4月 文春文庫 254頁 品切 購入
NDC
913(日本文学>小説 物語)
目次
眠る女 / アステロイド観測隊 / パーティー (ほか)
評価
★★★

「眠る女」で始まり「眠る人々」で終わる短編集。だから全部夢みたいなものだ。呪術的な沖縄、天文台潜入。いろいろな仕掛けが入っているが、遠くから眺めているような静寂感はずっとある。その種の緊張が心地よい。

『小説の羅針盤』

表紙

発行
1995年4月 新潮社 249頁 絶版 購入
NDC
901(文学>文学理論 作法)
目次
上田秋成 / セーレン・キルケゴール / 森鴎外 (ほか)
所要
3時間10分
評価
★★★

15人の作家論。ケルアックから山田詠美まで、論の分量もバラバラなんだけど、「全部僕の好きな作家です」の統一感でその魅力が伝わる。特に日夏耿之介の詩作は精密に分析され、知らなくても読みたくなるような出来。

『星界からの報告』

表紙

発行
1995年4月 書肆山田 140頁 品切
NDC
914(日本文学>評論 エッセイ 随筆)
目次
星界からの報告 / しなやかな工学
所要
1時間30分
評価
★★★

宮沢賢治の宇宙だとか、文学と科学の間を漂うエッセイ。夜空を仰ぐことで僕たちは想像力を翔ばして来たのだった。話の展開自体が文学寄りなので論よりムードにはなるのだが、星好きな人にはたまらない世界の書物だ。

『むくどりは飛んでゆく』

表紙

発行
1995年5月 朝日新聞社 221頁 絶版 購入
発行
2001年4月 朝日文庫(『むくどりは千羽に一羽……』・『むくどりの巣ごもり』の前半と合本、『むくどり通信 雄飛篇』として) 519頁 1050円 購入
NDC
914(日本文学>評論 エッセイ 随筆)
目次
確実な禁煙法 / けんか三味線 / まとまったお金 (ほか)
評価
★★★

日常的エッセイシリーズ第二弾。ちょうど沖縄に引っ越した頃で、憧れの地でようやく人間らしい生活が始まるのだという喜びがあちこちに。また『ハワイイ紀行』な時期でもあるのでその話題も。あとは得意の旅事情が。

『海図と航海日誌』

表紙

発行
1995年12月 スイッチ・パブリッシング 277頁 1733円 購入
NDC
019(図書館・図書館学>読書 読書法)
目次
序 日々の糧と回心の契機 / 一 地中海世界の彼方へ / 二 子供の読書と大人の読書 (ほか)
評価
★★★

読書をめぐるエッセイ。「日々の糧と回心の契機」を本の役割として問うくだりは、やっぱり自分と同じ種類の人間であると親しみも湧こうというもの。必読の99冊を挙げる試みはすごいね。この海の広さを感じさせるし。

『むくどりは千羽に一羽……』

表紙

発行
1996年5月 朝日新聞社 209頁 絶版 購入
発行
2001年4月 朝日文庫(『むくどりは飛んでゆく』・『むくどりの巣ごもり』の前半と合本、『むくどり通信 雄飛篇』として) 519頁 1050円 購入
NDC
914(日本文学>評論 エッセイ 随筆)
目次
バラ色の指、衣はサフラン / 大阪おそるべし / トラック街道 (ほか)
評価
★★★

第三弾。フランスの核実験への抗議はなかなかすがすがしいし、「愛県精神」をむくむくと育てつつ沖縄を取り囲む様々な問題に憤ったりするのも快い。この時期の随想的文章に「オウム」を入れなかったのは敢えてかな?

『未来圏からの風』

表紙

発行
1996年5月 パルコ出版局 405頁 3262円 購入
共著
写真:垂見健吾
NDC
915(日本文学>日記 書簡 紀行)
目次
出発の前に / デリーからジスパへ / ヒマラヤにて (ほか)
評価
★★★★

テレビとの合同企画で、人間の未来について考察する紀行。ヒトの進化を目撃するのは哲学か科学か? ダライラマほかへのインタビューを収録し、特に三人の科学者の生命観はこんなにハードな話でいいのかってくらい。

『ハワイイ紀行』

表紙

発行
1996年8月 新潮社 326頁 絶版 購入
発行
2000年8月 新潮文庫(2章を追加、『ハワイイ紀行【完全版】』と改題) 558頁 940円 購入
NDC
915(日本文学>日記 書簡 紀行)
目次
淋しい島 / オヒアの花 / 秘密の花園 (ほか)
評価
★★★★

現地の発音に忠実に、ハワイではなくハワイイと言うのだ。島本来の文化・自然を論じたハワイイ論。固有種が外来種に駆逐されてゆく植物層と民族に鋭く迫る。リゾートは俗物達に任せて、こんな旅の方法もあるんだな。

『やがてヒトに与えられた時が満ちて…』

表紙

発行
1996年12月 河出書房新社 157頁 絶版 購入
発行
2007年11月 角川文庫 177頁 780円 購入
共著
写真:普後均
NDC
913(日本文学>小説 物語)
目次
ティーダ研究会 / L氏の幽霊 / ゾウを呑んだウワバミ (ほか)
所要
2時間10分
評価
★★★

文明と人類の未来を視る連作SF。地球の災厄から逃れスペースコロニーに移住した人類。環境も思想もすべてコンピュータ制御される平和な社会だ。問われる「進化」が池澤らしい論調。ヒトは「神」になるべきかどうか?

『むくどりの巣ごもり』

表紙

発行
1997年5月 朝日新聞社 213頁 絶版 購入
発行
2001年4月 朝日文庫(前半を『むくどりは飛んでゆく』・『むくどりは千羽に一羽……』と合本、『むくどり通信 雄飛篇』として) 519頁 1050円 購入
発行
2001年4月 朝日文庫(後半を『むくどりとしゃっきん鳥』・『むくどり最終便』と合本、『むくどり通信 雌伏篇』として) 519頁 1050円 購入
NDC
914(日本文学>評論 エッセイ 随筆)
目次
夢のふしぎ / やっぱり紙が好き / 昨年の残念 (ほか)
評価
★★★

沖縄米軍基地問題への提言が白眉だろう。海上基地を造るなら全国を流れて回ればいい、ついでに原発も、なんて楽しいではないか。あとはディズニーを機体に描くことの馬鹿らしさとかを含む、エッセイシリーズ第四弾。

『やさしいオキナワ』

表紙

発行
1997年6月 パルコ出版局 283頁 絶版 購入
共著
写真:垂見健吾
NDC
748(写真・印刷>写真集)
目次
沖縄人の肖像I / 沖縄人の肖像II
評価
★★★

沖縄論たる小エッセイののち延々写真が並び、「このまま終わるんだろうか?」と不安になった頃に第二章が。そんな作りの写真集+エッセイ。写真は沖縄人の肖像に迫っていて、文章はその顔を造った歴史と文化を語る。

『読書癖3』

表紙

発行
1997年7月 みすず書房 276頁 2100円 購入
NDC
019(図書館・図書館学>読書 読書法)
目次
作家の伝記 / 編集は楽しい / 会社の名前 (ほか)
評価
★★★

書評ほか本界隈の話、第三弾。ストックからフローへと変わる読書傾向だとか「いかに蔵書を退治するか」という章にしても、現在的な「情報」の本質を考える姿勢がよく分かる。書評では「ライ麦畑」とかも入っている。

『明るい旅情』

表紙

発行
1997年9月 新潮社 221頁 絶版 購入
発行
2001年6月 新潮文庫 246頁 絶版 購入
NDC
915(日本文学>日記 書簡 紀行)
目次
汽車と、世界の本当の広さについて / アジアは汽車がいい / ジュバへ行く船 (ほか)
評価
★★★★

すなわちポジティブな邂逅だ。明るい旅情だけが、旅の記憶を正確に再現する。とは言うものの、土地の歴史や未来には悪い夢のように湿った部分もあるのだけれど。カリブ海、イギリス、沖縄、北欧などを巡る紀行文学。

池澤夏樹書評ページ