読んだらすごかった本ランキング 2011

現代文学100字レビュー

概要

2011年はちょうど100冊読みました。震災後はしばらく本を読む気分にならない日々が続いたのでもう少し少ないかと思いましたが、結果的に例年通り。そのなかから、「これはすごい!」と思った10冊の発表です。

1位 伊藤比呂美『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』

2011年5月 講談社文庫 660円

内容紹介
この苦が、あの苦が抜けていきますように。詩であり、小説であり、エッセイであり、大音声であり。生きる勇気が腹の底から湧き上がってくる最良の人生の指南書。紫式部文学賞、萩原朔太郎賞ダブル受賞。
100字レビュー
生老病死をすぐそばに侍らせた日米往復暮らし。古今東西の語りから借りてきた声が折り重なる新鮮な響き。これが詩か小説かエッセイか関係なくなって、言語感覚の辣腕ぶりに唸る。しかもちゃんととげ抜き的救いまで。
選評
なにより表現がすごい。「これは小説とは呼べない」つって、とある文学賞を落ちたらしいですけど、小説の枠組みがどうでもよくなるくらいの読む喜びがあります。

2位 角田光代『三面記事小説』

2010年9月 文春文庫 530円

内容紹介
バリケードのような家に住む姉夫婦、妻殺害をネットで依頼した愛人の心の軌跡など"三面記事"の向こう側を鮮やかに描いた小説集
100字レビュー
実在の事件を端緒に想像を飛ばせた小説集で、あくまでフィクションなのに現実にぐいっと引き寄せられる。そのバランスが抜群。不倫相手の妻を殺すために金を積む女の、「警察沙汰にする」決意の在処には慄然とする。
選評
こういう「リアリティの獲得」方法がありなのかと唸りました。構造に溺れないでちゃんと力のある小説になってます。

3位 岡田利規『わたしたちに許された特別な時間の終わり』

2009年12月 新潮文庫 380円

内容紹介
「あ始まったんだねやっぱり戦争」----イラク空爆のさなか、渋谷のラブホで4泊5日。岸田戯曲賞受賞、「チェルフィッチュ」で演劇界に衝撃を与えた新鋭が、小説の世界に切り拓いた新しい地平。各紙誌絶賛! 第二回大江健三郎賞受賞作。
100字レビュー
「イラク戦争」をラブホテルでやりまくることでやり過ごそうとする話。ムダなものばかりに囲まれた安心感、その生活をキープするのはパワーが要ることで。そんなに輝いてもない特別な時間、同時代に生きてるのだね。
選評
ぬるぬるでずるずるで、何を言ってるのか、どこを目指してるのか分からなくなってくる、そんな作品です。最新モードっぽい。

4位 宮沢章夫『ボブ・ディラン・グレーテスト・ヒット第三集』

2011年8月 新潮社 1575円

内容紹介
あの夜、歌舞伎町のビルに火を放ったのは自分なのか、それとも?―泥酔した記憶が定かでない中古レコード店主は自問を繰り返す。不穏な日々を彩るように流れるディランの歌声。やがて不審な客が店を訪れ「火をつけろ」とつぶやき姿を消した…。あの「九月十一日」の直前、東京・西新宿を舞台に、変容する世界を描く表題作と、三十一年間借りたままの本を返しにゆく奇妙な一日を写す「返却」。現代演劇を刺激し続ける著者が挑む“小説の冒険”。
100字レビュー
歌舞伎町ビル火災から、911までの10日間。世界変容のエアポケット、あやふやな世界線に惑う男。放火犯かもしれない、というかすべてが私かもしれない。「何が起こるか知ってる」ことに因らない不穏な感じが卓抜だ。
選評
911の予兆に満ちた世界、ですが、「大震災直前」の風景のように読みました。平和なんて簡単に崩れてしまいます。

5位 村上龍『歌うクジラ』

2010年10月 講談社 上・下巻とも1680円

内容紹介
2022年のクリスマスイブ、ハワイの海底で、グレゴリオ聖歌を正確に繰り返し歌うザトウクジラが発見された・・・・。そして100年後の日本、不老不死の遺伝子を巡り、ある少年の冒険の旅が始まる。
100字レビュー
不死遺伝子を抱えて宇宙へ。ディストピア未来小説。グロを含む執拗な描写は物語を推進しない細部へ注がれていて、プロットがむき出しという印象。語られる思想もナマで共振しにくいが、強烈な鬱エネルギーをご賞味。
選評
電子書籍化の騒ぎにまぎれてしばらく読みそびれてました。村上龍の長編はやっぱり安定した面白さがありますね。

6位 星野智幸『俺俺』

2010年6月 新潮社 1680円

内容紹介
マクドナルで隣り合わせた男の携帯電話を手に入れてしまった俺は、なりゆきでオレオレ詐欺をしてしまった。そして俺は、気付いたら別の俺になっていた。上司も俺だし母親も俺、俺でない俺、俺ではない俺、俺たち俺俺。俺でありすぎてもう何が何だかわからない。電源オフだ、オフ。壊ちまうす。増殖していく俺に耐えきれず右往左往する俺同士はやがて―。孤独と絶望に満ちたこの時代に、人間が信頼し合うとはどういうことか、読む者に問いかける問題作。
100字レビュー
俺俺詐欺から始まる俺の増殖。「俺」役が俺じゃなくても構わない現代社会のメタファなのだと諒解させそうになる前半と、小説としての安定を振りきって混沌へ向かう後半の狭間を楽しんだ。「自意識」作家の面目躍如。
選評
ぐるぐるまわる俺たち。みんな俺ばっかりだ。非常に星野智幸らしい作品。

7位 高橋源一郎『さよなら、ニッポン』

2011年2月 文藝春秋 2350円

内容紹介
「権威の象徴でもあった文学」について、さらに「新しい小説」なんてものがあるとしたら……? 日本文学史上初の根源的小説論第2弾。
100字レビュー
小島信夫『残光』の普通でなさから入って、現代文学、新しい文学を考える。『残光』を模したかのように収束せず広がる問いかけで。私の好きな作家・作品がたくさん取り上げられてることが単純に嬉しかったりもして。
選評
保坂和志の文学論を読むと「小説なんて絶対に書けない」と思わされるのですが、高橋源一郎の文学論は「僕も小説を書いてみたい」と思ってしまう。不思議。

8位 カズオ・イシグロ『夜想曲集』

2011年2月 ハヤカワepi文庫 819円

内容紹介
切なくユーモラスなカズオ・イシグロ初の短篇集、待望の文庫化! ベネチアのサンマルコ広場で演奏する流しのギタリストが垣間見た、アメリカのベテラン大物シンガーとその妻の絆とは――ほろにがい出会いと別れを描いた「老歌手」をはじめ、うだつがあがらないサックス奏者が一流ホテルの特別階でセレブリティと過ごした数夜を回想する「夜想曲」など、音楽をテーマにした五篇を収録。
100字レビュー
男と女の間を、想いを断ち切るように、背中を押すように、流れる音楽。短編集としての小品感はあるし、コメディタッチも唐突だったりするけど、黄昏ゆく者たちの痛みが著者らしいムードを作ってる。入門編としても。
選評
なんか大人。大人な短編集。音楽とともに。

9位 川上未映子『先端で、さすわさされるわそらええわ』

2007年12月 青土社 1365円

内容紹介
よるべなき虚空をゆく一個の疑問符は何を貫き、何に融けるのか?“少女”という憑坐を得て、いま言葉はうたい、さわぎだす。圧倒的新星の伝説的デビュー作を含む7編、ここに爆誕。
100字レビュー
文筆デビュー作を含む散文詩集。観念的で怨念的で、読みやすさの調整もしてない関西弁で畳み込まれるエキセントリック女子の心象風景に震えるわ。客おいてけぼりの独白絶唱だけど、エロ哀しい文体、僕は楽しんだよ。
選評
デビュー作からこんなに鮮烈な言葉たちなのだね。

10位 岡崎祥久『独学魔法ノート』

2005年2月 理論社 1575円

内容紹介
魔術とは「人類を苦しめてきたもっとも有害な妄想」である。僕は、自分でもどうすることも出来ない熱狂の中にいた。人智を越え、次のパワーの源へ。超現実的魔法使いを目指す13歳の記録小説。
100字レビュー
魔法に憧れる中学生。少年期の世界拡大物語として微妙なとこで成立してる。ファンタジーでなく、かといってリアリティもない、思考実験に近い青春小説。大人になるってのはカップを立てられることじゃないんだよね。
選評
これジュブナイルと位置づけられるの? 魔法に憧れる少年、というだけの小説じゃないよ。

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