陸中海岸北上記(3)

イギリス海岸

どのへんがイギリス海岸?

賢治が「イギリスの白亜紀の風景に似ている」と言ったことから名づけられたイギリス海岸。海岸とはいうものの実際には河岸になる。どこのアングルがイギリスに見えるのか皆目わからずうろうろしてしまう。その由来を記述した案内板が立つのだが、そこに添付されている写真の場面が、どう考えても周辺にないのだ。

まぁいいかと適当なところに座り、買ったばかりの『銀河鉄道の夜』をめくった。寓意豊かな短編群で、説法的用例が気にはなるものの、それなりには読める。

駅へ戻ろうと歩いているとブックオフを発見し、小1時間滞在。東北では古着は古本屋で買うのだろうか? 古着のほかにスロットマシンなんかも売っている。3万円ほどの値札がついていた。

鉛温泉

鉛温泉藤三旅館に投宿

花巻は温泉の町としても知られる。いくつもの温泉が点在し、花巻温泉郷をなしている。今日は温泉に泊まりたいなと思い、駅から電話をして宿を確保、バスに乗る。

まだ雪の残る山間へとバスは進む。そのどんづまりに鉛温泉の1軒宿、藤三旅館がある。湯治場の風情いっぱいで、一言でいえば小汚いところだ。旅館部と自炊部に分かれ、ぼくは旅館部へ入ったのだが、自炊部では長逗留の人がいるらしい。

ぎしぎし軋む木造三階建てで、二階の客室へ案内された。このフロアでは客はぼくだけのようだった。

狭い客室。真ん中に置かれた炬燵はもう温まっていて、住み込みで働いているという女中さんが、買い物にも1時間かけて町に出なければならないことの不便さを延々と嘆きながらお茶を入れてくれる。窓の下には川が流れている。がたついた木枠の窓を滑らせると、さわさわと水の匂いが聞こえてくる。

鉛温泉白猿の湯

鉛温泉白猿の湯はいい風呂だった

ここの名物は白猿の湯という、深さ125センチの風呂だ。岩盤の隙間から湧いてくる源泉を足裏に感じながら、立ったまま浸かる。サイドに腰掛ける部分はあるのだが、この深さで知られるところ。

この湯は混浴になっているのだが、もちろん若い女性は入ってこない。とにかく誰もやってこない。ほかに客はいないのだろうか?

湯の中に立ち、吹き抜けの高い天井を見上げると立ちくらみしそうだ。階段を降りて、地下にあたる部分が浴場になっている、その3階分の高さが広々とした印象を与えているわけだ。階段というのも変わった造りになっていて、廊下を歩いてきて扉を引くと、もうこの湯が見下ろせる位置に出るのだ。そこから階段を降り、湯のすぐ横にヨシズで仕切られただけの脱衣場で浴衣を脱ぐ。だから、女性には厳しいものはあるかもしれない。

湯上りにビールを2本ほど。炬燵の上に料理を並べてもらい、しみじみ静かな温泉を体中で喜びながら夜は更ける。宮沢賢治を5篇ほどたいらげるごとに、また、湯を求めて廊下を歩く。

この白猿の湯のほか、河鹿の湯、龍宮の湯、アトミック風呂とそれぞれ源泉の異なる4種の風呂があり、それぞれを堪能。このなかでは白猿の湯がぬるめということもあり、何度か入った。しかしアトミックってなんだろう?

3月25日(5日目) 温泉もうひとつ

大沢温泉

大沢温泉露天風呂

鉛温泉を出て、バスで少し下るところにある大沢温泉へ立ち寄った。宮沢賢治が何度も訪れたという宿。ここもやはり自炊部を備えた湯治対応の宿だが、旅館部はこちらのほうが近代的で、それを風情なしと取るか清潔と取るかで評価は変わるのかもしれない。

風呂はいくつかあるのだが、ここの名物湯、混浴の露天風呂は自炊部を抜けた先にあり、迷路のような廊下を何度も曲がり間違えながら向かう。「大露天風呂」というには通常サイズだけれど、川を眺めてのロケーションは悪くない。向こうの橋から丸見えだが。湯はアルカリが多めで、肌への即効性はありそう。

川の向こう側の建物もこの旅館の別館であり、大きな宿であることが実感できる。鉛の小ぢんまりさとはかなり違う。

大沢温泉購買部

大沢温泉の長逗留向け売店

鉛にもあるのだが、自炊客用に売店が充実している。飲み物や土産品はもちろん、野菜や肉なんかも売っていて、ここで食材を求めては自炊するわけだな。

ビールを買って飲む。

バスで花巻駅まで出ると、ちょっとバスが遅れたからか、目当ての列車に乗れず、遠野へ出てみようかと思っていたプランを断念して東京に向かう。

鈍行で行こうととりあえず一ノ関までで下車し、昼食と散策。湯疲れしていたこともあり、ここからは新幹線に乗って眠って帰った。(了)