藤沢周『ダローガ』レビュー
書誌情報
レビュー
長めの感想
久しぶりに五つ星付けたんじゃないかな、藤沢周『ダローガ』。新潟の地方紙「新潟日報」に連載されたやつで、そんなマイナーな出自ゆえか発売後に書店探してもなかなか置いてなくって、4軒目で見つけた曰く付きの書です。
最近やはり長編小説の『箱崎ジャンクション』が出たんですがそれはまだ読んでないものの(買ってあるけどね)、ほかの藤沢周の著書は全部読んだという立場から言わせてもらうと、『ダローガ』、彼の最高傑作じゃないですか?(言い切るなら言い切ればいいのにクエスチョン付き)
主人公は三味線の上手い不動産屋なんですが(というとアホっぽいのだが・・・)、文章から完璧に三味線の音が聞こえます。舞台装置も風景もみんな無くなって、音色だけになる瞬間があります。これなかなか素晴らしいですよ。
ロシア美女のピアノとジャムるシーンで、これはもう満点だと思いましたから。表現に飢えた作家という言い方もできるだろうし、奇抜な感覚器官と言ってもいいんでしょうけど、ここまで書ける人ってそういないと思います。どんな表現手法なのか説明すると「なんだ、ありがちじゃん」と言われそうなので説明しません。ストーリーとあわせ読まないとね。
また、いらついてざらついた心象風景は藤沢周の得意とするところですが、これもまた通低音として鳴ってます。下らない現実があって、下らない自分がいて、自分に苛立つから世界を毒づくしかなくなる、その狭間の文学表現はいつもながら。東京から上司が掛けてくる糞みたいな電話と、新潟の荒々しい海。
三味線と不動産屋と新潟とロシア美女ってぜんぜん線で結ばれなくって、どんな話なんだかぜんぜん想像できないでしょうが、三味線好きの人はぜひ。いやや、三味線好きじゃなくてもぜひ。
「ダローガ」ってロシア語で「道」という意味だ、として作品中で語られるんですが、これ「~だろうが」入ってますよね、絶対。だからどうしたということもないんだろうが。