北村薫『ターン』レビュー

書誌情報

北村薫『ターン』表紙
ターンたーん
1997/08
NDC:913 | 文学>日本文学>小説 物語
目次:ターン

レビュー

時の流れから脱落して一人同じ1日を繰り返す。音のない世界の永遠の7月。乗り辛い二人称小説だと思ってたのだが、鳴らないはずの電話が鳴る中盤以降はぐっと引き込まれる。こんな明確な救済ってなかなかないもんね。
読了:2002/08/01

長めの感想

ストーリーや構成の妙は読んでくださいってことで触れなかったりしまして。これ、二人称小説です。「僕は~~した。」が一人称、「彼は~~した。」が三人称、二人称は「君は~~した。」ですね。二人称小説で成功してる作品って見たことなかったんです。

というより二人称小説を読んだのはたぶん前に1作きり。辻仁成の『グラスウールの城』収録「ゴーストライター」がそうでした。二人称の試みとしては完全に失敗してる作品です(いやいや)。

二人称を使うからには、「君は~~」と呼びかけているのは誰なのか、という影の一人称が構造的必然にちらつくもので、そこの処理をうまくしないと破綻してしまうのです。

『ターン』では、誰もいない世界という設定なので、主人公「君」に喋らせるための必要性から置かれた装置なんだろうな、と思ってました。初めは。これが、最後には完璧に着地する。すごいです。この試みだけでも評価に値しますね。その技は読んでみてのお楽しみ。

文章の色艶を純粋に楽しめばいいんでしょうけど、そんなテクニカルな部分が気になる29歳の夏です。

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