大崎善生『アジアンタムブルー』レビュー

書誌情報

大崎善生『アジアンタムブルー』表紙
アジアンタムブルーあじあんたむぶるー
2002/09
NDC:913 | 文学>日本文学>小説 物語
目次:アジアンタムブルー

レビュー

『パイロットフィッシュ』続編。癌で死に行く恋人という設定はストレートすぎて卑怯だと思うのだが「ボルシチ博士」とかSM海外ツアーだとか、伏線ともいえないただのリフレインが大いに効いてる。大団円も文句なし。
読了:2002/09/01

長めの感想

何を期待していたかによるのでしょうが、「期待通り」ってのも本来だめなんだろうと思うんですね。『アジアンタムブルー』はあまりにシンプルな「喪失」を描こうとしているゆえ、裏切られる箇所がまったくないわけで。癌を宣告された恋人との残りわずかな日々、なんていまさらそれかよーと思わないわけでもない。無理矢理に感動を含んでる展開なので、期待通りに感動するわけです。

じゃあなんで4つ星なのかといえば、細かな仕掛けが随所に入っていて、後半にちゃんと効果を上げてるからなんです。ヒロインがカモメとウミネコの区別がつかない「鳥音痴」だったりすることだとか、ボルシチにはうるさい「ボルシチ博士」だとか、前半には微笑みを誘う文脈でそれらのエピソードが登場するわけです。それが後半には泣きの要素としてきちんとリフレインしてきます。この丁寧な仕事振りには頭が下がります。

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