読んだらすごかった本ランキング 2010

現代文学100字レビュー

概要

2010年に読んだ本はちょうど100冊でした。そのなかから、これはすごいと思った10冊、です。

1位 カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

2008年8月 ハヤカワepi文庫 840円

内容紹介
優秀な介護人キャシー・Hは「提供者」と呼ばれる人々の世話をしている。生まれ育った施設ヘールシャムの親友トミーやルースも提供者だった。キャシーは施設での奇妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に力を入れた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちのぎこちない態度…。彼女の回想はヘールシャムの残酷な真実を明かしていく―全読書人の魂を揺さぶる、ブッカー賞作家の新たなる代表作。
100字レビュー
施設で育つ子供たちを穏やかな筆致で描きながら、滲み出してくる不穏な世界観が徐々に未来を覆う。人間の生、倫理をテーマとして扱ってるのに、そのグロテスクな背景よりも上質な、完璧な物語を読んだ喜びに満ちる。
選評
前々から気になっていたのを手にとってみたらすごく良かった。なんでもっと早く読まなかったんだろう。ストーリーテリングの腕ってのはこういうのを言うのですね。

2位 川上未映子『ヘヴン』

2009年9月 講談社 1470円

内容紹介
「僕とコジマの友情は永遠に続くはずだった。もし彼らが僕たちを放っておいてくれたなら―」驚愕と衝撃、圧倒的感動。涙がとめどなく流れる―。善悪の根源を問う、著者初の長篇小説。
100字レビュー
陰湿ないじめを受ける二人の交流と、いじめる側の論理。こんな文体も書けるのかと驚くうちに、善悪を混同させる世界に浸かってる。辿り着いた場所がヘヴンか何処かも分からないけど壮絶に美しい、ラスト痺れました。
選評
これまでの作品からぐっと文体を変えた長編。こうみると正統派の現代作家です。問題意識のあり方が現代風という意味で。「ここだって出口だよ」という示し方。

3位 青来有一『爆心』

2010年9月 文春文庫 650円

内容紹介
殉教の火、原爆の火に焼かれながら、人はなぜ罪を犯し続けるのか?「聖水」で芥川賞を受賞した著者が、欲望と贖罪、死とエロスの二律背反の中で苦悩し歓喜する人々を描いた連作短編集。人間の内奥を圧倒的な物語性の中で展開し、谷崎潤一郎賞、伊藤整文学賞の二つの文学賞を同時受賞した衝撃的作品。
100字レビュー
長崎という地が深層に抱く原爆の記憶を、きりしたん信仰的な原罪とで合わせ織った連作短編。「戦争を忘れるな」といった直接的なテーマではなく、歴史の上に立つ日常を抑制の効いた文体で取り出してて、ぐっとくる。
選評
芥川賞受賞後の作品がどうもうまくノッてないと思いながらウォッチはしてた作家、なのですが、この作品は上手い。取り出しにくいモチーフながらバランスを維持して書ききってる。

4位 村上春樹『1Q84 BOOK3』

2010年4月 新潮社 1995円

内容紹介
そこは世界にただひとつの完結した場所だった。どこまでも孤立しながら、孤独に染まることのない場所だった。
100字レビュー
待望の第三巻。「ラブストーリーである」という世間の評を肯うように、青豆と天吾の引き合う力に焦点をあわせて圧倒、美しいまでの完結感。そのぶん精神サイド、リトル・ピープルなどに謎は残ったままなのが焦れる。
選評
図らずも、昨年のランキングでBOOK1~2をいれたのと同じ位置です。これで完結だと言われると寂しいんですけども、ラブストーリーとしては堪能しました。あとはその裏側のドロドロに肉薄する続編が読みたいです。

5位 舞城王太郎『ビッチマグネット』

2009年11月 新潮社 1260円

内容紹介
なんだか妙に仲のいい、香緒里と友徳姉弟。浮気のあげく家出してしまった父・和志とその愛人・花さん。そして、友徳のガールフレンド=ビッチビッチな三輪あかりちゃん登場。成長小説であり、家族をめぐるストーリーであり、物語をめぐる物語であり…。ネオ青春×家族小説。
100字レビュー
情緒不安定な姉とビッチばかりを引き寄せる弟、愛人のところから帰ってこない父の家族小説。物語への懐疑をポジティブに解体してみせる。家族のあり方と自意識のありようを考え続ける姉、その自画像の上手さに拍手。
選評
ぶっ飛んだ作品を余裕で書いちゃう作家ですが、このくらい抑制の効いた(?)作品もまた味があって好きです。

6位 川上未映子『乳と卵』

2010年9月 文春文庫 400円

内容紹介
娘の緑子を連れて大阪から上京してきた姉でホステスの巻子。巻子は豊胸手術を受けることに取り憑かれている。緑子は言葉を発することを拒否し、ノートに言葉を書き連ねる。夏の三日間に展開される哀切なドラマは、身体と言葉の狂おしい交錯としての表現を極める。日本文学の風景を一夜にして変えてしまった、芥川賞受賞作。
100字レビュー
豊胸手術を願う母と、自問する娘、母の妹である観察者わたしによる「女という性」論。構造もテーマも非常に分かりやすくて、鮮烈なクライマックスも「芥川賞狙い」と言えば言えるけど、素直に感動した。文体も好み。
選評
大阪弁な文体も別に鮮度はないんです。町田康以後だし。ストーリーもある種の定型だったりして。あれ、じゃ何が良かったのか。ラスト泣いてたのは事実です。

7位 前田司郎『誰かが手を、握っているような気がしてならない』

2008年3月 講談社 1680円

内容紹介
神の声が聴こえる娘と、その家族を描く著者初の長編小説。
100字レビュー
もちろん意図的な仕掛けなんだけど、話者が急に変わって驚かされることがたびたび。そんな語りの問題を考えたら当然出てくる「神視点」が主人公として実体化してたりもして、小説実験ながらコミカル味が心地よいよ。
選評
ミスリードがいっぱいで、あれ?って数行戻って読み直さないといけなかったりする、そういういちいち鬱陶しいやり方が逆に楽しかったので。

8位 椎名誠『すすれ!麺の甲子園』

2010年9月 新潮文庫 620円

内容紹介
北の味噌ラーメンが一番だというものがあれば、西の煮込みうどんを持っていって「どうだ」と言い、東で「いいですわねえ日本のソーメン」などと言う奴がいたら南のチャンポンを持っていって「なんのなんの」と叫びまくる。日本のあらゆる麺を食って走り回り、「どこのどの麺がうまいのか?」を勝手に決定する『麺の甲子園』、ついに開幕!イカソーメンや糸コンニャクも特別参戦。
100字レビュー
ラーメン、うどんにイカソーメンまで参戦する日本最強麺の決定戦。トーナメント戦(本戦)がぐだぐだなんだけど、地方予選たる全国行脚は楽しい。いわゆるご当地麺は網羅、食紀行として内容充実。強引評価も逆に好感。
選評
個々の麺について、あまり掘り下げた話は実はしてない。わぁわぁ言いながら日本縦断してるだけです。でもそれを見てるだけで食べたくなる不思議。

9位 池澤夏樹『本は、これから』

2010年11月 岩波新書 861円

内容紹介
グーテンベルク革命から五世紀。電子の端末が膨大なコンテンツから美しい「ページ」を開くこの時代、あなたにとって「本」とはいったい何か。それはいかに変貌するのか。書店・古書店・図書館・取次・装丁・編集、そして練達の書き手・読み手の位置から、鋭いアンテナの持ち主たちが応える―本の過去と未来を俯瞰する三七のエッセイ。
100字レビュー
紙と電子、本の未来について鳥瞰する寄稿エッセイ集。意外に紙LOVEの人たちも多くて、というか世の中の温度差がそのまま分布してるような幅の広い論説で、煽るだけじゃないのが信頼おける。本が好きってのが共通で。
選評
「本が大好き」な人たちが現在のシーンをどう見てるか、という文章をこれだけまとめて読むことってなかったので、なかなか刺激でした。

10位 伊藤比呂美『ラニーニャ』

1999年9月 新潮社 絶版

内容紹介
あたしは離婚して日本の家を出た。ここは南カリフォルニア。連れてきたのは二人の娘たち。捨ててきたものはたくさんある。白人の夫は人工股関節をつけてコンピューターに埋れ、娘は拒食症。空はまっ青、荒涼とした不毛の地に繁殖するユーカリ。エルニーニョが終わるとラニーニャだそうです。上質な饒舌体の小説集。
100字レビュー
娘以外のものは何もかも捨ててやってきたカリフォルニアの青空。詩人らしく響きにこだわった語り口調が新鮮で、思考がだだ漏れてるだけ、聞き手不在の饒舌さがなんとも怖い。人工股関節の鳴り方なんて知識も得るよ。
選評
高橋源一郎がオススメ本リストに載っけてたので手にとってみたのですが、確かによい。でも絶版でやんの。

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