読んだらすごかった本ランキング 2012

現代文学100字レビュー

概要

2012年に読んだ本は90冊でした。少ない。スマホを買ったら電車のなかの読書時間が減ったからです、明らかに。来年は心いれかえて精進します。そんな90冊のなかから特に気に入った10冊です。

1位 東浩紀『クォンタム・ファミリーズ』

2009年12月 新潮社 2100円

内容紹介
2035年から届いたメールがすべての始まりだった。モニタの彼方には、まったく異なる世界の、まったく異なるわたしの人生があるのだ──。壊れた家族の絆を取り戻すため、並行世界を遡る量子家族の物語。批評から小説へ、ゼロ年代のラストに放つ東浩紀の新境地!
100字レビュー
量子論と並行世界。物理&哲学用語満載のSFという体裁で、「春樹的」な物語への憧憬が加える色味も好ましく読んだ。後半がやや制御不足だが、批評家の初小説だというエクスキューズをせずとも興奮でき、入り込める。
選評
「村上春樹も村上龍も好き」という人には気に入るんじゃないかと思う。並行宇宙なSFなんだけど、精密に作った世界を壊してしまうような乱暴さが好ましい。2013年2月に文庫になるみたいなので、それまで待っても。

2位 角田光代/穂村弘『異性』

2012年4月 河出書房新社 1470円

内容紹介
好きだから許せる? 好きだけど許せない? 男と女は互いにひかれあいながら、どうしてわかりあえないのか。カクちゃん&ほむほむが、男と女についてとことん考えた、恋愛考察エッセイ。
100字レビュー
異性と恋愛を巡る往復書簡。それぞれに特殊な個性だけども、真摯な省察によって普遍に突き刺さってる言葉たちがある。膝打ち大会。「カーテン」からの論は、ゾッとする。「僕もそうだ」と自罰的な打ちのめされ方で。
選評
もともと角田光代も穂村弘も好きな作家なわけだけど、こういう組み合わせで本が出るとは思わなかった。それもこんなに楽しいやりとりになるとは。

3位 いしいしんじ『ぶらんこ乗り』

2004年7月 新潮文庫 546円

内容紹介
ぶらんこが上手で、指を鳴らすのが得意な男の子。声を失い、でも動物と話ができる、つくり話の天才。もういない、わたしの弟。―天使みたいだった少年が、この世につかまろうと必死でのばしていた小さな手。残された古いノートには、痛いほどの真実が記されていた。ある雪の日、わたしの耳に、懐かしい音が響いて…。物語作家いしいしんじの誕生を告げる奇跡的に愛おしい第一長篇。
100字レビュー
声を失った弟の創作ノート。「手をつないだままではいられない」空中ブランコ乗りとか「ハトのたま」とか、彼の物語が定型的でありながら新鮮。何層にもなった喪失感、でも前向きな余韻が残る構成が心に響きまくる。
選評
泣かなかった。それなのに読み終わったら、泣いたあとみたいな感触残った。なんだか触られたことのないところを触られて。

4位 マーセル・セロー『極北』

2012年4月 中央公論新社 1995円

内容紹介
文明の残骸、絶望と飢餓――極寒の地で命をつなぎ、最果ての迷宮に足を踏み入れた私は……英国新鋭の壮大にして異色の長篇小説。
100字レビュー
極北の荒廃した世界、打ち捨てられた町々、何が起こったのか?を主人公の強靭な背中を追いながら知っていくことになる。「3.11後」にリアルと切り離して読むことはできず戦慄する。こんなタフな生き残り方できるか。
選評
がっつり体力を使う本。それもまた読書の喜び。

5位 長嶋有『ぼくは落ち着きがない』

2011年5月 光文社文庫 500円

内容紹介
人って、生きにくいものだ。みんなみんな、本当の気持ちを言っているのかな?
100字レビュー
高校図書部の物語。仲間内の流行語「ヤドゥー」とかコミュニティの描き方が細部まで上手くって、その場に居合わせたような気分になれる。高校時代に感じてたくだらない色々をリアルに思い出す。青春小説の模範だね。
選評
高校時代をやり直したくなる。漫画的でもあるんだけど、それがむしろありうる感を煽る。

6位 今村夏子『こちらあみ子』

2011年1月 筑摩書房 1470円

内容紹介
少女の目に映る世界を鮮やかに描いた第26回太宰治賞受賞作。書き下ろし作品『ピクニック』を収録。
100字レビュー
「無垢な愚者」としてのあみ子の言動が周囲を傷つけ、家族を崩壊させる。優しさも悪意も紗の向こうに霞む、鈍感で平和な視界。無造作のようで隅々まで企みの届いた文体がいい味だ。「墓」でやられた、胸が痛すぎる。
選評
快・不快で言ったら不快、でも小説としての強さが不快を洗練させてる。

7位 佐伯一麦『ア・ルース・ボーイ』

1994年5月 新潮社 絶版

内容紹介
loose〔lu:s〕a.(1)緩んだ.(2)ずさんな.(3)だらしのない.…(5)自由な.―英語教師が押した烙印はむしろ少年に生きる勇気を与えた。県下有数の進学校を中退した少年と出産して女子校を退学した少女と生後間もない赤ん坊。三人の暮らしは危うく脆弱なものにみえたが、それは決してママゴトなどではなく、生きることを必死に全うしようとする崇高な人間の営みであった。三島賞受賞。
100字レビュー
高校中退の少年と、私生児を産んだ少女が職安を訪ねるシーンから。若い苦さと居場所のなさを描いたみずみずしい青春小説。電気工として手に職をつけていく過程とか、語りが丁寧なため情景が心象となって染みこむよ。
選評
初めて手にとった佐伯一麦作品だけど、日本的私小説の良い成分が溢れてる。身の丈以上のことは起こらないのに、身の丈にあった感動がある。

8位 東浩紀/桜坂洋『キャラクターズ』

2012年7月 河出文庫 693円

内容紹介
「文学は魔法も使えないの。不便ねえ」批評家・東浩紀とライトノベル作家・桜坂洋は、東浩紀を主人公に小説の共作を始めるが、主人公・東は分裂し、暴走し……衝撃の問題作、待望の文庫化。
100字レビュー
分裂増殖する東浩紀、小説内批評にミスリードされる「作者」とメタジャンクな共作小説。阿部和重・舞城王太郎・筒井康隆を超えようという実験性は、物語を壊すに足る力強さで暴走する。失敗してるように見える成功。
選評
東浩紀2冊も入れちゃった。小説というものの在り方を激しく問う作品。

9位 本谷有希子『ぬるい毒』

2011年6月 新潮社 1365円

内容紹介
ある夜とつぜん電話をかけてきた、同級生と称する男。嘘つきで誠意のかけらもない男だと知りながら、私はその嘘に魅了され、彼に認められることだけを夢見る―。私のすべては、23歳で決まる。そう信じる主人公が、やがて24歳を迎えるまでの、5年間の物語。
100字レビュー
都会(の男)への憧れやら劣等感やらで読者を不快にさせる技法が際立つ。「自分がいまどれくらい、心とまったく別の動きができるのか確かめた」とかタイトルもだけど、主題を高らかに語る点に功罪あるが、功と取った。
選評
芥川賞は取れないだろうと思うけども、本谷有希子らしい。

10位 青木淳悟『私のいない高校』

2011年6月 講談社 1680円

内容紹介
鬼才が放つあまりにも前衛すぎる学園小説 カナダからの留学生を受け入れた、とある高校での数ヶ月の出来事――。普通すぎるのに普通じゃない、物語という概念を徹底的に排除した、「主人公のいない小説」
100字レビュー
主人公がいないとか、物語性を最後まで抑圧してみせたりとか、「誰も見ていない時、月は存在するか?」という問いの、見られてない月を描写する試みだと言える。実験性がいつも人を楽しませるわけではないけどもね。
選評
小説的な興が意図的に消されてて、読み進めるのが苦しい本。でもこういった試みを踏まえて(小説というものが)その形を変えていって欲しいなと思う。

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