丸山健二『千日の瑠璃』レビュー

書誌情報

丸山健二『千日の瑠璃』表紙
千日の瑠璃せんじつのるり
1992/01
NDC:913 | 文学>日本文学>小説 物語
目次:千日の瑠璃

レビュー

私は風だ、私は焦燥だ、私は精進料理だ。千の森羅万象が頁毎に主人公となり、まほろ町の現在を語る。「踊る体を持つ」少年与一の青い未来を語る。純文学であることの痛々しいまでの決意が作家に行わせる忍耐ゲーム。
読了:2000/05/01

長めの感想

ようやく『千日の瑠璃』読み終わりました。通勤電車と夕食時の定食屋でしか読んでないもので、2~3週間かかってしまいました。で、どっぷり疲れました。

題名通り、1000日間の物語で、1日が1ページ、つまり1000ページあるわけですね。で、さらに、主人公が1ページごとに(つまりは1日ごとに)替わるんです。その主人公は、1ページ目・風、2ページ目・闇、3ページ目・棺、それから鳥籠、ボールペン、ため息、九官鳥、雨、風土なんて続きます。「私は風土だ。」と言うのです。生物非生物、森羅万象すべてが主人公になるのですよね。町の1000日間の出来事を、彼らが観察し語るわけです。この設定(もしくは野望)で全編貫いてしまったのはすごいことです。普通なら途中でくじけます。というよりこんなこと誰もやりません(褒め言葉です)。

で、そんな主人公たちが描写するなかから一つの町が浮かび上がってきて、一人の少年の生き様が見えてくる、という趣向なのですが、物語の進行は極度に遅いのですよ。蟻が自分の哲学を語り一日が終わったりする。「男は覚悟した」ということを「覚悟」が自分の固さを語ったりする。じりじりと世界は這い回るんですね。

で疲れてきた終盤になって、こんな言葉に出くわしたりする。「この世は小説家が期待するような動きなど絶対にしないものだ、と言い、大半の人々は劇的な日々の外側に身を置いていることを忘れるな、と言う」。ここに至っては小説家の企みに敗退し、拍手するしかない。すごいもんです。忍耐力のある人は挑戦してみてもいいかもしれない。

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