キャッシュとディッシュ
岡崎祥久
2026-06-26
フィルムアート社 First Archives
話題の文芸新シリーズ[First Archives]第2回配本。
叔父が残した唯一の遺品は、軽くて手ざわりのよい白い皿だった。非正規労働で暮らす男はやがてその力に気づく。購入したモノの代金を返す皿が、男の部屋と人生を変容させていく表題作「キャッシュとディッシュ」。
書籍取次センターで働く男は、春になったら絵の学校へ行くことを支えに冬を越えてゆく。単純労働、屋上の陽光、オートバイ、巨きな女。流れていくコンベヤーの前で抜け出すはずだった時間が過ぎていく群像新人文学賞受賞作「秒速10センチの越冬」。
1997年と2020年、20余年の時を隔てて描かれた、すり減っていく生活、見えない出口、ずらされていく未来、自己責任。失われた30年の閉塞と抵抗を刻み込んだ2編を収録。
形が残らなくなった消費活動の果てには何が残るのか。無駄遣いはただの無駄なのか。貧困と買い物から、生の限界を描く傑作撤退文学。
──渡辺祐真(作家・書評家)
身につまされる。今までつまされたことのない部分が身につまされる。この身につまされ方には、中身が詰まってる!
──斎藤真理子(翻訳家)
※収録作
「キャッシュとディッシュ」『文學界』(文藝春秋)2020年8月号
「秒速10センチの越冬」『群像』(講談社)1997年6月号
◆シリーズ[First Archives]
倉本さおり・滝口悠生・町屋良平の3名が選者となり、文芸誌に発表された小説や入手が困難になっている書籍のなかから、あらためて読み直されるべき作品を刊行していくシリーズです。
文学には、発表時に大きな反響を呼びながらも単行本として読まれる機会を持たないまま時間が過ぎていってしまうことが少なくありません。
First Archives は、そうした作品をはじめて書物として残し、文学の記録として手渡していくための試みです。
発表から時を経て、こうして刊行される作品が、新たな読者との出会いを生むことを願っています。
目次
「キャッシュとディッシュ」
「秒速10センチの越冬」
解説(倉本さおり)