マイケル・ギルモア/村上春樹『心臓を貫かれて』レビュー

書誌情報

マイケル・ギルモア/村上春樹『心臓を貫かれて』表紙
心臓を貫かれてしんぞうをつらぬかれて
Shot in the Heart
1996/10
NDC:936 | 文学>英米文学>記録 手記 ルポルタージュ
目次:第一部 モルモンの幽霊 / 第二部 黒い羊と、拒絶された息子 / 第三部 兄弟 (ほか)

レビュー

自ら死刑を求めるに至る殺人者の暗闇。その弟として、兄弟の、あるいは両親の心の廃墟を抉るノンフィクション。悪霊よりも「人が人を損なう」ということの恐ろしさが如実に伝わるね。そしてなぜ春樹が訳したのかも。
読了:2001/04/11

長めの感想

もちろん村上春樹訳だから手にとったわけです。春樹が訳したいと思ったからにはスゴイはずだという「書評者」として失格な思い込みですら、恥ずかしげもなく表明したりするわけです。「訳したからには」でなく「訳したいと思ったからには」ね。タイミングとしては遅すぎるけれども、前々から読んでみたいと思っていたのをようやく手にとったわけです。もちろん絶賛な評判もいろいろと聞いてるわけですけどね。さてはや。

ノンフィクションで、殺人の罪で銃殺刑となった兄を軸に、家族の確執と破滅が描かれます。虐待が人を損なってゆく心理的考察としても、悪霊に取り付かれるというオカルト・ホラー風にも、死刑制度の是非を問う論文的にも読めたりして、ぐっとくるところが様々に配置されてます。が、僕がもっとも効いたのはラストに近い部分。「ここでこの物語を終えてしまうのが妥当なようにも思える。どうやらこれが結末という感じだ。」という記述があった以降のいわば蛇足の部分です。それまでは兄弟や両親のことを(伝聞が多いとはいえ)驚くほど客観的に記述者として記述してきたんですが、ネタバレ的なものでもないので言っちゃいますと、著者自身の暗闇を胸から取り出して見せる部分です。ここに至って誰一人血を流さずにすむものはいないという冷たいエネルギーに触れ、肌を粟立てながら思うのです。誰が誰の心臓を貫いたのかと。あるいは愛はどこから生まれるのかと。

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