島田雅彦『彗星の住人』レビュー

書誌情報

島田雅彦『彗星の住人』表紙
彗星の住人すいせいのじゅうにん
2000/11
NDC:913 | 文学>日本文学>小説 物語
目次:彗星の住人

レビュー

4代100年に渡って繰り広げられる恋物語。駐留米兵の子を身ごもった蝶々夫人、マッカーサーの愛人を寝取った蔵人、恋が歴史を作る。絡まった糸を丸ごと描写する、珍しくも本気の著者。時間の越えかたも素晴らしくて。
読了:2001/02/01

長めの感想

久しぶりに(もしかしたら初めて)本気の島田雅彦を見た気がしますよ、『彗星の住人』。余力を残してるという風に見える作品がなきにしもあらずで、少なからずやるせない想いをしてきたんですが、この作品では一切手を抜いていない。恋の系譜で歴史を物語る筆力もすさまじく、時代を飛び越える足腰も揺るぎないです。「私はついに自分にしか書けない恋を発見した」という著者の言葉どおり、縦横無尽な恋のリレーにくらくらします。

ピンカートン===蝶々夫人
       |
       | ===野田那美
       JB |
         =|=ナオミ
          |
  松原妙子・・・野田蔵人===野田キリコ
             |
            野田カヲル


久作===カヲルの義理の祖母
   |
  シゲル===アミコ
      |
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 |    |   |  
 |    |   |    ・・・麻川不二子
マモル アンジュ カヲル(養子)
               ===カヲルの妻(旧姓椿)
                |
               椿文緒
				

現代の作品としては珍しく(?)、こんな風な系図が冒頭に掲げてあります。姿をくらませた父カヲルを探し求める文緒に、蝶々夫人の悲恋に始まった恋の遺伝子を、老いた盲目の伯母アンジュが語り聞かせるという構成になってます。順序はバラバラですが、恋に生きた一族が見事に構築的に浮かび上がります。完全に虚構としてマッカーサーなんかが登場したりする、歴史とのからみ方も上手いですね。

これは大長編の第一部にあたるんでしょうか。「無限カノン1」と標されています。カヲルの「禁断の恋」がまだ語られていませんし(この「禁断」ってのもマズイよね、島田らしいけど)、なにより文緒の恋もこれから描かれねばならないと思いますし。これは続編もなんとしても読まねば。

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