川崎徹『彼女は長い間猫に話しかけた』レビュー
書誌情報

彼女は長い間猫に話しかけた
2005/05
NDC:913 | 文学>日本文学>小説 物語
目次:彼女は長い間猫に話しかけた / 言い忘れたこと / 水を汲みに行く (ほか)
レビュー
絞りすぎ乾燥させすぎでカラカラな文章の多い氏の小説にあって、父の死に思いを馳せる表題作は特異な突き抜け方。満ちて溢れるままの感情で読者を流し去るような、ある意味正攻法の作品。併録作はいつも通りだけど。
読了:2005/08/14
長めの感想
キダさんが父の名前を呼んだ。
意識のない者に届かせるというより、忘れ物をした人間を呼び戻すふうだった。
声は黒い矢印となって、消灯された廊下を走った。
以上、川崎徹『彼女は長い間猫に話しかけた』導入部から引用。ちょっとしびれました。もしかして他の人の有名な作品から引用した文章だったりするんだろうか?と思わずググってしまうほど、完成された一文です。
川崎徹はときどきこういう絶妙な振り切れ方をします。帯に書いてある高橋源一郎の推薦文に惹かれて買ったわけですけど、うん、悪くない。
『1/8のために』で川崎徹の小説の素晴らしさは堪能してましたし、それが絶版であることを常々嘆いていたりしましたので、今作『彼女は長い間猫に話しかけた』は『1/8のために』に迫る勢いの傑作、嬉しいことです。皆さんにもおすすめ。
表題作以外はそうでもないんですけどね。