山川健一『ニュースキャスター』

現代文学100字レビュー

作品情報

山川健一『ニュースキャスター』の表紙画像
タイトル
ニュースキャスター
かな
にゅーすきゃすたー
著者
NDC
913 文学>日本文学>小説 物語
目次
第一章 予兆 / 第二章 行為 / 第三章 情愛 (ほか)
評価
★★★★☆
レビュー
テレビ報道という世界と、そこに関わる人々の闇を描いたノンフィクションノベル。医師殺害犯から番組に電話が掛かってくる。敬愛するキャスターに自分を知ってほしくて。人気キャスターの抱える荷物はこんなに重い。

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実験台にさせられていると思い込んだ男が、担当医師を射殺して逃亡する。「彼」だけは自分の正当性を分かってくれると敬愛するニュースキャスターへ連絡を取り、電話対話の生放送にも応じるが、視聴率至上主義の番組に踊らされただけだと逆恨みして「彼」追い詰める。

というストーリーがあるため「クライム・ノベル」なんてオビに書いてあるわけですが、犯罪者の手口なり心理なりよりはニュースキャスターの葛藤に焦点が当たってます。だからこれは「ノンフィクション・ノベル」として読んだほうが面白いと、一読者としては思います。

「本作品は現実の事件・人物・団体を素材にしておりますが、すべては著者によるフィクションであることをお断りいたします」という奥付の注記を引いておけばその性格は分かるかと思いますが、ノンフィクション的にリアルな細部と、小説としての重厚な心理描写を同時に獲得している。事実は小説よりうんぬんではなくって、どこまでが事実でどの部分が小説なのかすら分からない緊迫した展開となってるわけです。

主人公のキャスター「ナイトステーションの立花耕一」には、読めば誰にでも分かる形でモデルが設定されています。夜10時の人気ニュース番組のキャスターとして年間億を稼ぐあの人です。もちろん取材に基づいているんでしょうが、ここまで書いていいのかってくらいに深く心理へ潜ってゆきます。いや、スキャンダラスな意味ではないんです。文学的な場においての人物造形がすごいです。例えばこんな表現。

「睡魔に襲われ、意識が朦朧としてくる頃、立花は絞ったタオルで拭いてやった父親の亡骸を思い出しながら、自殺などしなくても人間はやがて死ぬのだと、あきらめるように思うのだった。」

こんなことを考えているんだ、と「誤解」させるに充分な表現です。毎晩テレビで顔をさらす生活に疲れ始めた男の虚像と実像。「小説」であることによってその虚像と実像は、さらに二重写しのものとなって広がります。

自民党の梶山幹事長(という名の登場人物です。念のため)が圧力をかけて番組スポンサーを降ろした噂とか、他局を出し抜いた5時57分からニュース本編をオンエアする画期的編成プランだとか、テレビ業界の裏事情みたいなものも書き込まれています。立花の息子とハッカーの少女が出会うくだりも刺激的です。

どの場面も、まるで現実のもののように映像が浮かびます。その不思議な感覚を楽しんでみてください。

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