池澤夏樹『ハワイイ紀行』

現代文学100字レビュー

作品情報

池澤夏樹『ハワイイ紀行』の表紙画像
タイトル
ハワイイ紀行
かな
はわいいきこう
著者
NDC
915 文学>日本文学>日記 書簡 紀行
目次
淋しい島 / オヒアの花 / 秘密の花園 (ほか)
評価
★★★★★
レビュー
現地の発音に忠実に、ハワイではなくハワイイと言うのだ。島本来の文化・自然を論じたハワイイ論。固有種が外来種に駆逐されてゆく植物層と民族に鋭く迫る。リゾートは俗物達に任せて、こんな旅の方法もあるんだな。

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タイトルいいじゃないですか。『ハワイ紀行』だったら何やら大昔の「ああ憧れのハワイ航路」な匂いがしてしまうけれど、『ハワイイ紀行』。重ねた「イ」にハワイイに対する敬意と愛が詰まった多面的ハワイイ論です。

始めはタイトルどおりの紀行文になるはずだったそうなんですが、いつのまにやらルポルタージュになってます。ハワイイ固有の自然や文化を守るために尽力する人々に会って話を聞くうちに、いろんな視点を得て、事実伝達に徹した文章になっています。

大航海時代、クックがやってきて以後、ハワイイは急速に固有色を失ってゆきます。外来の植物により壊滅的打撃を受ける固有植生、英語に取って代わられるハワイイ語、観光化してゆくフラ。ひとつの王国がアメリカ合州国の属州となってゆく厳しい歴史が検証されています。それはまさにアイヌの北海道や沖縄の状況と同じですね。

熱く共感しながらも、客観的立場を失わない。もとより「島好き」の作家ですけれど、これだけ本格的論文はなかなかすごい。

各章ごとにテーマを立て、キラウエア火山に迫ったり、ハワイイ語学校に潜入したり、タロ芋畑でつかまえてだったりするんですが、特に気に入ったのはハワイイ固有の植物層・動物層に関する論考です。この絶海の火山諸島に幸運にも辿り着き芽吹いた生命が、いま死のうとしている。感傷でも怒りでもなく、ただその事実を見る。「絶滅とはどういうことか」という『楽しい終末』の作者らしい観察眼でのレポートがしみじみとよいです。

また、サーフィンに一章を割いている部分もあるのですが、それにしたってまったくリゾート風味にはならないのですよ。この島々でサーフィンに適した大波が立つのは何故なのか、そもそもサーフィンとは何なのか、考え、レジェンドと呼ばれるプロサーファーたちの海上哲学に耳を傾ける。そのなかで、この島の懐の深さみたいなものが浮かび上がってくるという寸法です。

ハワイイってこんな素晴らしいところだったんだ!と勝手ながら思います(行ったことないもんで)。なんだかもう読んでるだけで旅行した気分です。それも、観光客が絶対行かないような土地を訪ねるストイックな旅をした気分ですよ。それを味わえるだけでお買い得。

ワイキキでひがないちにちアロハオエなあなたにも、「ハワイなんて俗物の行くところだぜ、けっ」と荒んでるあなたにも、おすすめです。偏見に満ちた「ハワイ」から解放してあげましょう。

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