昼寝日和の最上川紀行

旅行記

行程

2000-10-20
東京―上山温泉
2000-10-21
上山温泉―大江―寒河江―山形
2000-10-22
山形―東京

社員旅行帰りに山形。左沢線に乗るのが目的。それを目的と言って良い印象は与えないだろうことは承知のうえで。

2000年10月20日(1日目) ねぼすけの秋

「もしもし。・・・もしもし?」

受話器からは雑音が聞こえるのみだ。ひとつ舌打ちをして再びベッドにもぐり込む。と、ほどなく電話は鳴り出す。なんなんだ? 取り上げると、やはりノイズだ。もうひとつ舌打ちを加えて受話器を落とそうとしたとき、遠くから女性の声が途切れ途切れに聞こえてくる。芝田、さん、です、かっ?

ああ、彼女が誰なのか、一時に理解してしまって、慌てて時計を手繰れば朝の9時30分。「宿へ直行します」と寝惚けたまま答え、もう一度時計を見つめる。それは会社の業務部の女性で、ノイズ交じりなのは彼女が新幹線内にいるからなのだ。そこにはうちの会社の社員一同が乗っている。僕を除いて。

東京駅集合は9時10分、9時20分発の東北新幹線。仙台からバスに乗り換え、蔵王を巡り、上山温泉へ向かう、社員旅行なのである。早い話が寝坊して列車に乗れなかったわけだな。

どう考えても追いつけるスケジュールではないので、宿へ直行というのは寝起きのわりには適切な対応であるのだが、逆に余裕さえできてしまう。皆が宿に到着する予定の16時30分にこちらも着くようにすると、東京は13時に出ればいいことが判明。かといってもう一回眠るのもナンだから、「寝坊したよー」というメールを知人に打ったりして過ごす。未読棚から三冊ほど引き出した本をバッグに詰めて、部屋を出る。

上山城
上山城

山形行きの新幹線はすいていた。缶ビールを飲みつつ町田康の『実録・外道の条件』を読む。まるで確信犯のような平安な心持ちである。

上山温泉着は3時半。まだ宿に入るには早い。玄関脇に正座してスリッパのひとつも温めながら、神妙な顔を作り、皆の到着を待つのも手だが、それにしても早過ぎるので、雨の中、駅のコンビニで買った傘をさしながら上山城へ向かう。ここは以前に来たことがあり、時間つぶしだ。展示物をゆっくり眺めて回る。

そろそろ良かろうと駅からタクシーで旅館へ。日本の宿古窯。上山温泉では最高ランクの旅館ではある。行ってみると、社員はもうすでに部屋に入っているという。社員旅行日程での到着時刻より早い。またしても失策だ。ナニサマだ、僕は。と低身低頭を用意しつつ部屋へ。

聞くと、蔵王は雨に煙って何も見えず、予定を大幅に切り上げて宿入りしていたのだそうだ。なおさら僕は責められるべき立場となるわけだが、内心はともかく、あきれて笑う程度で許してもらえているようだった。

ゆっくり温泉に浸かって、宴会へ。餅つきがあったりダンスがあったりとコンセプトもなにもなく、クラブでの管理職者たちに囲まれての二次会も滞りなく済み、眠る。

2000年10月21日(2日目) 一人座すのは最上川

最上川
最上川

他の会社の社員旅行には出たことがないので、このシステムが一般的なのかどうかは分からないのだが、うちは宴会終了で社員旅行は終わる。金曜に宴会、土曜の朝には現地解散となる。個々に三々五々別れ、土日に勝手に旅行するなり直帰するなり自由なのだ。つまり今回の旅は、ここから始まるのだ。

同室の年寄りたちが早起きなもので、つられて7時前に起きる。朝風呂でアルコールを抜いて、バイキングの朝食を食べ、宿を出た。とりあえず山形駅まで行く。仙山線に乗り換えて山寺にでも行こうかと思ったのだが、その列車には社員が他にも何人か乗っていたので、彼等と一緒になりたくもなかったので向かいのホームに止まっていた左沢線に乗る。そんなことだから友達のひとつもできないのであるが。

終点の左沢で降りる。駅前は小さなスーパーが一軒あるだけの大江町。2~3分歩くと最上川に出た。上流にあたり、川幅もそれほどない。例によって川岸まで降りてみる。昨日の雨で土は濡れていて、寝転がるには不適切。乾いたコンクリートがあったのでようやくそこに座りこみ、しばらく景色を眺めてぼんやりする。釣り人が糸をたれ、小舟が浮かぶ。頬を撫でる秋風が心地よい。列車で読みついであと数10ページを残している町田康『実録・外道の条件』を取り出して読む。最後の短編がニューヨークの物語なのだが、クールでホットなスペースを探してニューヨークを徘徊することの下らなさが、ここではよく分かる。緑があって水が流れ、空は青い。他には何もいらないだろう?

舟唄温泉・左巻温泉
舟唄温泉・左巻温泉

本を読み終わり、地図を頼りに国道を歩く。遠く広がる畑のなか、まっすぐに道は伸びている。実を揺らす柿の木が植わっていたり、山形名物「芋煮」用の薪を売っていたり。風も心地よく、歩くには申し分のない気候だ。

道の駅を折れ、柏陵荘という温泉施設があったので入ってみる。古びた老人保養センターといった態の浴場には二種類の温泉が湧いている。まずは単純冷鉱泉の左巻温泉。透明な湯で、沸かしすぎなのか少し熱め。そして奥には灰白色に濁った舟唄温泉がある。こちらは含硫黄・ナトリウム-カルシウム-塩化物温泉で、やや温めか。健康に良さそうなぬめり感がある。窓の外には最上川。目の前には老人の緩んだ腹。いいではないか。

ヤナ
ヤナ

温泉の目の前にあったそば屋へ入り、ビールと天ざるの昼食にする。やはり風呂あがりにはビールに限る。早速次の本、渡辺浩弐『2000年のゲーム・キッズ』を読みながら。

店の横、最上川にヤナがある。とれたての鮎を焼いている屋台がある。最上川で育った天然物?の鮎にはそそられるものがあるが、とりあえずそばを食ったばかりなので辞退して、ヤナで作業する親父を見つめて過ごす。

健康温泉館
健康温泉館

柏陵荘の隣にはもう1棟の温泉施設「健康温泉館」がある。こちらは最近できたばかりの施設らしく、観光客で賑わっているようだ。さきほど柏陵荘のおばちゃんに聞いたところ、こちらは舟唄温泉だけで左巻温泉は引かれていず、それだのに料金が柏陵荘より100円高い300円なのだそうだ。観光客は健康温泉館、地元の人は柏陵荘という棲みわけかと思われるが、ここはやはり柏陵荘が正解。

温泉に浸かって、ビールも飲んだし、道の駅のベンチで小1時間昼寝をする。それから途中見かけた公園や寺に入ってみたりしながら駅へ戻る。

駅には小学生が溢れていた。遠足らしい。2両編成の列車は恐らく彼等だけでこぼれそうだろうから、次の1時間後の列車に乗ることにして、スーパー前で猫と遊んで過ごした。

寒河江はさくらんぼの町
寒河江はさくらんぼの町

左沢線、寒河江で途中下車する。さくらんぼで名高い?町で、駅前の広場にもさくらんぼを使った飾りが多い。町作りの苦労が偲ばれるが、なぜ噴水にさくらんぼを掲げる必要があるのかは分からない。

駅前の通りを何かないかと歩く。小さな社の鳥居に目を奪われたり、デパートのエスカレーターを登っていったら保育園風になっていて驚いたりしつつも、めぼしいものは見つからない。とりあえずメインストリートであるはずなのだが、寂びれた飲み屋が並んでいたりと中途半端な印象。

駅へ戻ろうと道を引き返していると、温泉を発見。往路では気づかなかったのだ。寒河江温泉と看板のかかったプレハブ小屋のような小さな施設。入ろうとすると、そこは無人。玄関に箱が置いてあり、道向かいの酒屋で入浴券を買ってここに入れて入るという寸法だ。

寒河江温泉。こう見ても温泉
寒河江温泉。こう見ても温泉

さっそく酒屋で入浴券を求め、入ってみる。浴場は狭く、古びた感じ。過疎地帯の銭湯といった風情で、お世辞にもキレイとは言えない。が、お湯はなかなか。鉄色をした湯が轟々と吐き出され、湯船のふちから溢れている。多少熱めかと思ったが入ってみるとちょうどよい。他に客がいなかったので伸び伸びと浸かる。窓からは・・・何も見えない。

ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉。そうか、施設名は寒河江温泉公衆浴場なか湯というのだな、と木の温かみある脱衣場で成分表をメモっていると、先ほど入浴券を求めた酒屋の親父がやってきて、暗くないかいと言う。夕方になったので電気を付けに来たのだ。恐らくは町内会で管理運営している素朴な湯なわけだな。

再び列車に乗って山形へ出る。ラーメン屋で夕食。手打ちラーメンの店で、麺は妙な食感なのだがスープは抜群に旨い。カウンターで、隣に座っていた二人連れのサラリーマン。先輩社員風の男が食べ終わり、暑いから外へ出て待ってるよ、といって席を立った(事実カウンターの前でぐつぐつ湯が煮えてて暑いのだ)。麺を茹でていた親父が振り返りざまに一喝、「相方がまだ食べてるだろう、座っとけっ!」。頑固親父のこだわりラーメンである。憮然として座りなおす先輩社員に、ああ、ごめんなさいごめんなさいと言いながら啜りこむ後輩社員。店の名前は秘密。ダイエー裏。

2000年10月22日(3日目) 山形でちょっとだけ町歩き

山形の文翔館
山形の文翔館

マークスイン山形というビジネスホテルで泊まったのだが、ここはバスルームが洒落ている。シャワールームだけでバスタブがないのだ。ビジネスホテルにしちゃ変わってるねぇと使用方法説明書を読むと、シャワールームに湯を張ってバスタブとして使うことも可能、なのだそうだ。それってどうだろう? 都会ではこういうのがナウなの? 僕には分からない。

さて、翌朝、山形市内をぶらぶらして過ごすことにする。まずは旧県庁舎を保存公開している文翔館。会議室や応接室なんかが見られる。ルネッサンス様式というのか、存在感のある建物ではある。

霞城公園
霞城公園

それから道に迷って堀の裏側へ行っちゃったりしながら、霞城公園。山形城跡を整備した公園で、何やら発掘工事中。最上義光像を中心とした広場で、ベンチに座って本を読んだり、寝転がったり、猫をあやしたり、また本を読んだりしながら、気持ち良く晴れた日を楽しむ。

と、火薬鉄砲を乱射しては走りまわるお子様がたがやってきて急速に騒がしくなったので退避、なんだか腹が減った気がするので(時計を持ち歩かないので時間が分からないのだ)、堀に面した芋煮そばの店で昼食。

山形美術館
山形美術館

城のそばの美術館へ。この日はマティス展をやっていて、女性モデルに焦点を当てた展示はなかなか美しい。ああ、シャガールだねぇ、ああ、ピカソだねぇ、などと素人風芸術の秋を気取りつつ。

駅前をぶらつく。古本屋に入って、ストリートスライダーズ特集をやっていた昔のロッキンオンなどをめくり(解散するんだね、残念)、なんだかもうすることもなくなったので、風俗店にまぎれて立つラーメン屋で早めの夕食を取り駅へ戻る。

新幹線ホームへ行くと自由席がいっぱいだったので、一本遅らせることにした。どうせ急ぎゃしないんだ。ホームで缶ビールを飲みながら次を待つ。そうしたら次も満席で、指定席までもいっぱいだと言うから連結部に座っていくことにした。缶ビールと本を片手に、移動車中で日が暮れる。(了)

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