吉野から徳島、紀伊水道を跳び越えて

行程

[愛知・京都・奈良・大阪・和歌山・徳島・高知/吉野、徳島、高知] 吉野から和歌山に出たら、徳島へ渡りたくなったんですよね。四国へ行くのにこんなルートもあるよという旅程サンプル。あまり参考にならないかもしれませんが。
「吉野から徳島、紀伊水道を跳び越えて」地図
「吉野から徳島、紀伊水道を跳び越えて」地図
2002-04-28
東京―京都
2002-04-29
京都―奈良―王寺―吉野―和歌山
2002-04-30
和歌山―徳島
2002-05-01
徳島―穴吹―阿波池田―高知
2002-05-02
高知
2002-05-03
高知―室戸岬―甲浦―海部―徳島
2002-05-04
徳島―和歌山
2002-05-05
和歌山―天王寺―名古屋
2002-05-06
名古屋―東京

旅行記

2002-04-28(1日目/日曜日)
目的地未定のまま京都まで

「出発する前には会社の同僚に、南紀か四国か韓国か、って絞りきれない選択肢を語ったりしてたんだけど。韓国ってのは博多から船に乗って釜山へ入って、そこから慶州なんかを歩いてこようというようなプランだったんだけどさ。出掛けにパスポート引っ張り出して多くもない出入国スタンプをパラパラ眺めているうちに面倒くさくなってそのプランは取りやめて。南紀か四国かという行き先を保留したままとりあえず新幹線に乗るんだけどさ。なぜかこの日は京都に泊まってんだよ。南紀にも四国にも、中途半端じゃない? よく分からない行動だよね」

2002-04-29(2日目/月曜日・祝日)
吉野をわしわし歩く

吉野の蔵王堂
吉野の蔵王堂

「写真は吉野の蔵王堂。京都で、奈良経由で和歌山までの切符を買ったんだよ。時刻表めくってるうちに和歌山から徳島への船が出てるのに気づいて、急速にそそられつつあって、でも和歌山から南下して南紀ってプランも捨てきれずにいて、和歌山までの切符」

「近隣の寺でもめぐろうと奈良駅で降りたんだけど、駅前でボーイスカウトが元気に募金のお願いをしててさ。あーなんか悪い暗示だ。とか思ってまたすぐ列車に乗って王寺まで来た。書店でガイドブックを立読みして、やっぱり南紀がいいかな、って『アイじゃぱん 南紀・和歌山』なるガイドブックを買って、途中高野山へでも行こうかなってそのガイドブック見て考えながら、また列車に乗るんだ」

「でも吉野へ。吉野口駅のホームで、吉野行きの列車が向かい側に止まってたんで発作的に乗り換えてしまっててさ。さっき買ったガイドブックにも吉野は載ってないんだけど、気づいたら吉野でロープウェイに乗ってた」

「つい最近、うちの掲示板で書かれてた奥吉野の西行庵へ行こうと思ったんだけどさ、駅でトレッキングマップ入手してみるとそこまで7キロもありやがんの。目的地は山の上だから、すべて上り坂の7キロだな。まぁ行けるとこまで行こうって歩いて。金峯山寺の蔵王堂、堂々とした風格があって。修験の地だよね。ってぶつぶつ言いながらそばの茶屋でビールと柿の葉ずしの昼食をとって、ビールくさい汗だらだら流しながら延々歩くわけさ」

吉野水分神社
吉野水分神社

「実は上までバスもあるんだけど、登りは徒歩にて行きたかったわけ。カチにて詣でたかったわけ。帰りはバスでもいいかなとか」

「行程の半ばにある吉野水分神社。水分でみくまりと読むらしいんだけども。もうここは熊野って感じの社だよな。子守りの神だとかで、なんつーんだ、よだれかけ?とかオムツなんかが奉納されてる。受け付けのおばちゃんがスリリンをやっててびっくりしたんだけど。知らないよね、スリザーリンク、略してスリリンなんてパズル。昔はぼくもエキスパートだった」

「マップを見るとここまでで4キロ。いちおうの終点となってて、これからはオプションコースと書いてある。タバコ吸いなんでもうぜえぜえ言ってんだけども、終点までいかなきゃ」

「この辺からは遠望がきいて、緑一色の山容が見渡せるんだけれど、さっき参った蔵王堂がはるか遠くに、それでも確かな存在感をもって鎮座ましましてるんだよね」

奥吉野の静かな山道
奥吉野の静かな山道

「そうこうするうちに奥吉野のバス停があって。下山の最終バスが15時30分だって書いてある。いま何時ってその辺に座ってた眠たげなおっちゃんに尋ねると14時30分だって言うじゃないか。ここから目的地たる西行庵までは往復2キロなのでぎりぎりちゅうか、終バスのがして歩いて下山する事考えたら目眩がしたのでとりあえず先を急ぐわけだな」

「金峯神社は最近になって社務所が全焼したとかで、悲惨な状態。道真が参拝したり、裏手の塔には義経がこもったとか、由緒正しき神社なのにね。本殿の後ろに石段があって、一般人は登れないんだけども、その石段を登ると何があるのか気になる」

「ここまでは車の通れるアスファルト道だったんだけども、こっからまさしくな山道になってる。もう少しもう少しってわっせわっせ歩いて。木々の薄暗がりと、旅人を転ばせるのを目的に整備された乱雑な敷石とで味のある道で、でもあまりゆっくりもできないのでわっせわっせ歩いて」

吉野の奥にある西行庵
吉野の奥にある西行庵

「ここが西行庵。西行が幽居した地ってことで、簡素な木堂がぽつねんと建ってる。なかには木像、もちろん西行なんだろうけど、木像が座ってる」

「俗塵を離れて、一人こんなとこでひっそり暮らすってのは憧れるよね。食料と防寒の問題さえクリアできるなら、3年くらいはいてもいいな。毎日鳥の鳴き声に目を覚まし、木々の色づきに季節を感じる暮らし」

「1時間を体感時間で計りとるのは得意なんだよね。会社の昼休みの1時間で日ごろ養ってる感覚なので。だから時計なくってももう20分くらいは大丈夫とか分かる。そんなんで西行庵の前で倒木に座ってぼんやりタバコ吹かしたりとか。いやいや、社務所全焼させたのはぼくじゃないっすよ。ちゃんと灰皿携帯してます」

「バス、まぎれもなくバスなんだけども、旅館の送迎バスみたいなマイクロで、運転手も普段着で、運賃を手渡すと、さっき時刻を尋ねたおっちゃんに『300円もろたでー』と声をあげてる。あらら、一般市民なおっちゃんだと思ったら切符売り役のおっちゃんだったんだね」

吉野にいた犬
吉野にいた犬

「写真の犬が気になってるだろうけどちょっと待って。バスは駅までは行かなくって、途中の竹林院前で止まる。竹林院には庭園があったので見に入った。豊臣秀吉観桜のおり千利休が作庭、だってさ。すごいじゃん。もちろん桜の季節はもう終わってるし、いまごろ来て庭がどうこう言っても意味ナシかもしれんけども、まぁそれなりのものではある」

「地図上に小さく吉野温泉元湯と書いてあるのを発見。温泉で汗流して帰るってもいいかもなぁと行ってみることにしたんだ。藪道みたいなとこをがしがし下って到着。源泉が湧いてるだけで入浴できない場所か、公共浴場か、旅館か、元湯って意味にはいろいろあるけども、ここは旅館でした。入浴だけってできますか?と聞くと、もう泊まりの人らが入ってるからと断られてしまって愕然と。愕然として旅館の前に座ってた犬を撮ったのがこの写真。いちおうナンバープレートにモザイクかけときました。はい」

「下山して、列車で和歌山まで出た。もう陽は暮れてる。『焼き鳥BAR』って店があってどっちやねんと言いながら入ってみたらまさに焼き鳥バーで、ジンバックで焼き鳥食べるためになってみたりとか」

「駅前でギター弾きが歌ってて、オリジナルかコピーか分からなかったんだけども『破れたシャツが素敵 気休めオーケー』って歌詞が気に入ってしまって、気休めオーケーオーケーって呟きながらホテルへ入って寝た」

2002-04-30(3日目/火曜日)
南海フェリーで船上の人に

南海フェリーに乗って
南海フェリーに乗って

「朝起きてみたら船に乗りたい気持ちのほうが大きくなってて、南紀のガイドブックを捨てて港まで行ったんだ。たった2時間で徳島に着いてしまう、小粋なフェリーが発着してる。このフェリー、2時間おきに出航してて1日12便。つまり夜中もずっと稼動してるわけ。すごいよね。とりあえずぼくが乗ったのは朝の便」

「船内はカーペット敷きのスペースがメインで、雑魚寝して行ける。ソファ席で本を読み始めたんだけど、窓を見たらいつの間にか動き出してて、それも気づかないくらい揺れは小さい」

「写真、カーペット席がらがらじゃん? 乗りこんですぐに撮ったんだけどさ。平日だしねぇって。途中でソファが疲れてきたのでカーペットへ移動しようとしたら知らないうちに難民キャンプみたいになっててさ。どっから湧いたか。入る余地がなかったのでまたソファに座って本読んだ」

「港からバスで15分ほど、徳島駅へ出る」

徳島の護国神社
徳島の護国神社

徳島には4年ほど前に来てて。写真も撮ってなかったので掲載してない旅なんだけどやっぱりゴールデンウィークに四国一周してるんだ。その時に徳島のみどころのひとつ眉山には行ったので、よく覚えてないけど行ったはずなので、今回は駅裏の中央公園へ。小山に登ったんだけど眺望はあまり広がらず、おまけに戦没者慰霊の護国神社だったりしてなんか二重に『あらら』とか言いながら降りて、公園ベンチでちょっと本を読んで、そのまま横になって昼寝して。優雅な午後を過ごしたわけだ」

「昼寝してるうちに雨が降ってきたんで、公園内にある博物館へ入ろうと思ったら定休日。駅まで走り戻って、駅ビル・クレメントプラザの書店で立読みして過ごしたりして。『るるぶ徳島』を買って。それ読んでも近場に面白げなものがなかったので早めにホテルに入ってしまった」

「夜になったのでそば屋へ行くと、メニューに『るるぶ徳島掲載』と書いてある。こういうことを得意げに書く店って味に力入ってないことが多いんで、ちょっとがっかりしたんだけど、ぼくもるるぶ見てやってきてるので文句もないわけでね。祖谷ぶっかけそばはまぁそれなり」

「R'sCafeというバーで軽く飲みに。カウンターに客が自由に使えるパソコンが置いてあってさ、そこから掲示板に書き込みしたりして、本を読んで飲んでた」

「スキンヘッドのオーストラリア人男性が一人で飲みにきて、3人組で来てた客が彼に話し掛けてさ。オーストラリアってのも彼らの会話が聞こえてきて知れたんだけどさ。NOVAで教えてると聞くと『ノバ・イズ・エキマエ?』つって笑ったりとか、スキンヘッドを指差して『エブリデイ・シェイブ?』とかさ。とにかく下らないことを聞いてたりして、こっちはもう全然読書に集中できなくって。スキンヘッドがどうしても気になるらしく『ナショナル?』って。外人さんそりゃ意味不明な顔しますわな。シェーバーのメーカーを尋ねたつもりらしいんだけども」

2002-05-01(4日目/水曜日)
吉野川沿いの鉄になって

穴吹でぼんやり吉野川
穴吹でぼんやり吉野川

「朝になっても雨が止まない。この日は、じゃあ、列車に乗って過ごそうかと、高知行きの切符を購入。穴吹止まりの列車があったのでそれに乗って終点で降りた。美馬市の穴吹。」

「ここから情緒ある町並みが残るらしい脇町へ行こうかと思ったんだけど、バスの接続が悪くてあと2時間くらい待たねばならないこと、るるぶによればメインのみどころである劇場が定休日だったこと、やっぱり雨の日に歩くのはつらいこと、なんかを勘案しつつ断念してしまったんだ」

「しようもなく、とりあえず、駅前にすぐ吉野川が流れてるんだけども、細い雨に煙る川を眺めてしばらく歩いて」

「わしらヤクザですけど住民とは仲良うやってまんねん。というムードの喫茶店で昼食に。そこしかやってなかったんでね。いまどきゲーム筐体がテーブルになってるような店で、よく分からないゲームの前に座ると、兄ちゃんそこ客おんねんでとか言われて慌ててカウンターに移ったりとか」

うだつのあがる阿波池田
うだつのあがる阿波池田

「あと1時間まてば鈍行があったんだけれど面倒になったので特急に乗ることにしたんだ。直通で高知まで行けるわけでもなく、阿波池田までの特急なんだけどね」

「写真は阿波池田駅から三好市街を歩いて見に行ったうだつ。うだつがあがらないって言うじゃん? このうだつを屋根に造り付けることが富の象徴であって、うだつも挙げられない奴はダメダメだ、なんてここが語源だとかいう。さっき言ってた脇町はこのうだつの町並みで有名なんだけども、池田にもほんの少しある」

「ほんの少しあるというか通りの一角だけを観光用に整備したってとこだろうね。ここも資料館が休みでさ。ぐるりと歩いて駅前に戻るだけ。というかうだつよりも、愛とセックスの関係について語りながら歩いてた女子中学生二人組のほうが気になってしようがなかったりもしてさ」

「手狭な駅前商店街の書店でしばらく立読みして、いや、買いもしたんだけどね、それもって駅前にあった喫茶で羊羹と抹茶で一休み。本読みながら列車の時間を待つわけだ」

へそっこ公園は四国のへそか
へそっこ公園は四国のへそか

「駅のすぐ横には『へそっこ公園』なるものがある。こういうのは命名の由来なんかを説明したくどくどしい看板が入口に立ってるものなんだけども、そういうのが見つからなかった。観光課の手抜きかね。つまりは四国のへそ、中心ってことだろうね。四方を山に囲まれて、ここだけポコリと陥没してる、まさにへそなんだわ」

「野外イベント、どんなのがあるのか知らないけど、イベント会場になりそうなステージが中心にあって。ちなみに公園内に観光案内所があるんだけどもそこも閉まってた」

「あっるるぶ見たら『いけだ阿波踊り』の会場だって書いてある。このステージで踊るのか」

「野球は個人的にはまったく見ないんだけども、池田高校って高校野球で有名じゃないですか。ぼくかて名前ぐらいは聞きますよ。それにちなんで、野球のユニフォームを着たカエルのオブジェが置いてございましたです。なんのこっちゃで」

土讃線ローカルは停まる停まる
土讃線ローカルは停まる停まる

「高知方面の土讃線。1両で動いてるワンマン鈍行に乗ってるんだけどさ。これが列車待ち合わせって一駅ごとに5分ずつくらい停まるの。単線だからなんだろうけどね。そのたびに外へ出て廃屋みたいな駅舎を眺めたり。それがために80キロばかりを3時間かけてゆっくり走る列車なんだ。東京から小田原くらいの距離だよ? それが3時間ってすごくないか?」

「写真で分かるかな、列車に愛らしい女の子のイラストが貼り付けられてるんだけども、これはぼくにも意味不明なので尋ねないで」

「この駅がどこか忘れちゃったな、繁藤駅か新改駅かその辺なんだけど、外へ出てタバコ吸ってたら、同じように外に出た女性が花を摘んでるのね。『なんの名前の花ですか』ってぼくに聞くわけ。花の名前なんて知らない無粋な私ですから、無理な質問なんだけどもね。『日本の花、高いね。ヴェトナムでは安いよ』って爽やかに微笑むヴェトナムの方で。もちろんこんなところからロマンスが始まるはずもなく」

「いや花の名前は覚えておいたほうがいいよね」

高知について、寿司屋でカツオ食って、マンガ喫茶でネットして、アイリッシュパブなんてものがあったのでギネスビールで本読んで、ホテルのコインランドリーで洗濯して。テレビの天気予報見てたら明日の天気、全国で高知だけに傘マークがついてたりしてげんなりして眠った」

2002-05-02(5日目/木曜日)
雨でうろうろと高知

高知城
高知城

「朝起きると今にも雨が降りそうだがなんとかもっている。ので、高知観光、高知城へ行ってみた。看板の説明書き読んでると、小倉智昭みたいな顔のタクシー運転手が桂浜もう行きました?とかずーっと話しかけてきてて、うるさかったので血迷って隣の県立文学館になんて入ってしまった」

「文学館ではどちらにしてもぼくの守備範囲から離れてしまうのであまり語るべきネタもないんだけども。『土佐日記』から宮尾登美子までって高知ゆかりの文人たちの人となりにふれられる」

「写真は城の追手門。さっきのタクシー屋さん、写真撮るならここで撮ったほうがいいよ、中に入るともう面白い絵はないから。なんて言われてたんで、あまのじゃくが身上だけどもここは撮っておこうかとか。中に入ったらある意味面白い絵だったんだけどさ」

セーラー服と高知城
セーラー服と高知城

「追手門をくぐって、奇妙な幅の石段を登り、1歩で登るには長いし、2歩には短いのよ。防衛上の工夫であるという風なのでなるほどなぁこりゃ敵も蹴つまづくよなぁとか思って」

「ふうと本丸へ入るとご覧の通り。女子生徒てんこもり。中学生とお見受けします。遠足だか修学旅行だか知らないけど、大騒ぎで。いじられた鳩はばさばさ飛ぶし。いわれのないやましさを感じながら写真撮って、だってそこらで座ってる娘らパンツ見えてるもの、それを狙ってるように見えないように注意しながら写真撮って」

「で、天守閣入ってみるとそこには小学生の遠足集団。どうなってんのよ。ヤッターマンの小メカが飛び出てくるみたいにして延々終わらない行列にあって、こっちはもう上へ登るタイミングもなかったりして。賑やかですねって入場券売りのおばちゃんに皮肉っぽく笑いかけてみたりしてね。おばちゃん恐縮してはりましたわ」

「ぐったり疲れて外へ出てみたら雨が降り始めてる」

「女子中学生、レジャーシート畳んで、ってここで弁当でも食うつもりだったんか? レジャーシート畳んで軒先で雨宿りなんかしてる。ぼくも傘をもってないんでちょっと小降りになるのを待つことにした」

日本三大がっかり名所、はりまや橋
日本三大がっかり名所、はりまや橋

「アーケード街を店覗きながら歩いて、並びの古本屋をじっくり見て、1時間ほど書店で立読みして。1冊購入。だいぶリュックも重くなってきた」

「本って重いんだよねすごく。よっぽど読み捨ててこようとも思うんだけどなんかしのびなくて。途中で1冊新書を資料的に読んで即日捨てたりしたのはあるけど、文芸作品は捨てづらいね。できるだけ旅先では文庫を買うんだけどやっぱり重い」

「写真ははりまや橋というやつで、交通量の多い交差点脇にひっそりとある。ひっそりとは言えこの町のみどころのひとつだし、観光客がけっこう写真撮りに来てる」

「江戸時代に播磨屋という豪商が掛けた橋ですね。もちろん何度も掛けなおされたものだけど、この朱塗りの太鼓橋風なのも当時の様子を忠実に再現してるんでしょうかね」

「晴れたら桂浜でぶらぶらするか、室戸岬まで出ちゃおうかと思ってたんだけど雨でどちらのプランも諦めて、この日は1日市街から出ずにだらだらしようと決めて、ここ見に来たんだけども」

はりまや橋公園
はりまや橋公園

「橋の両脇には公園が続いていて、花にはあまり関心なくてもこういう写真も撮ってみたりとか。とにかくすることないんだよね」

「この手の水際公園は雨である種、風情が増す部分もあるんで、それはそれで楽しむわけだけど」

「そうこうするうちに小降りになってきたんで、やっぱり桂浜へは行ってみようかとバス停に行くも、財布に5000円札しかなくて喫茶店で崩そうとコーヒー飲んでるうちにまた本降りになったりして、えーとこのあと何してたんだっけな。とにかくその辺にいたんですわ」

「蒸し暑い」

「まだ明るいうちにホテルに入って、寝転がって本読んでたんだっけ。で、夕食はクジラ料理の店で。カツオは昨晩寿司で食ったんだけど、この日はクジラ揚げたものにカツオ刺身で。あまりその土地土地の味を味わわねば!というようなこだわりはないんだけれど、土佐はカツオでしょ、とかまぁあるわけで」

「それから昨晩入ったアイリッシュパブにまた行ってしまった。居心地よかったので。日本酒が嫌いで、焼酎も不得手で、和な居酒屋だとビール飲むしかなくなるんだよね。酔う前に腹膨れちゃうような。ウィスキーだったら腰据えて飲めるのでこういう店のほうが過ごしやすい。アイリッシュウィスキーで筒井康隆を読む。昨晩は大江健三郎読んでてまだこの時点でも読み終わってないんだけど、バーストゥールに腰掛けて大江健三郎ってあまりに『やりすぎ』な感がしたので筒井をポケットに入れて出たんだ」

2002-05-03(6日目/金曜日・祝日)
ここに地終わり海始まる?

室戸岬の海っぺりへ
室戸岬の海っぺりへ

「高知からバスに乗って2時間、室戸岬到着。チェックアウトぎりぎりまで寝てたんで、もうすでに12時回ってる。徳島方面、甲浦駅行きになるんだけども、バス時刻をチェックして、バス停前のしょぼくれた店で昼食」

「灯台だとか最御崎寺へも行こうと思ったら、歩いて登るにはキツイ山上だったのでやめ、遊歩道にしたがって海岸を歩く。気が向いたところで遊歩道乗り越えて岩飛び越えて波打ち際まで行ってみたりしながらね」

「全面的に荒くれた岩場で、断崖絶壁にどおーんって浪砕ける風景でもないんだが、侵食で尖った岩くれが連なってる。ひとつの最果てではある。旅でもう読み終えてる宮本輝『ここに地終わり 海始まる』はポルトガルなんだけど、ここもやっぱり地終わる場所なんだよな」

「岩に座って本も読んでましたよもちろん。波の音を聞きながら、潮風を嗅ぎながら、雨降ってこないかとひやひやしながらの優雅な読書タイム」

葉に刻まれた落書き
葉に刻まれた落書き

「遊歩道沿いには南洋性の草木が植わってたりするんだけど、これ、葉を削って落書きしてあんのよ。別にエコロジストでも愛護団体でもないし、こういうの見ても写真撮るような悪趣味なことは普通しないんだけども、『やのさんの赤い流星に乗って来ました♥』『やっぱりやのさんは変です イモ焼いた』の2文にぶちきれて撮ってきてしまいました。晒し者にしようとしたんだけどあいにく女の名前メモ取るの忘れてて中途半端なことに」

「いや、やのさんの女のほかにも大量の落書きがあって、半年前、1年前の日付がそのまま読める状態で残ってて、その傷の周りから腐り始めてるのを見るのはやはり切ないよね。人として」

「でもこれが彼ら彼女らにはほかにメディアというか媒体がなかったせいなのかもしれないね。ぼくはこの道中、ときどきネットにつないで自分のサイトの掲示板に『いま高知でーす』とか書き込んだりしてたんだけれど、それと似たような指向のものなのかもしれない」

青年大師像
青年大師像

「遊歩道から抜けると、真白き大師像。近寄りはしなかったけど木々の間からすっくと立つ。さすが遍路の国」

「その向かい側に『海底深層水使用の露天風呂』って看板を掲げたホテルがあり、風呂だけでもオーケーとのことなので入ってみた。飲料や化粧水などいろんな分野で活用を進めてるらしい深層水。ここ室戸でそういう汲み上げ?の施設があるみたいだね」

「あたりまえだけど塩分が豊富で、お湯は塩辛い。美容健康にいいとかポスターが貼ってある」

「温泉の定義って、まず地下から湧いたものであることが必要条件なんだよね。で、一定温度以上のお湯が湧いたら、それすべて温泉なんだよ。温度が低いものを冷泉っていうけども、冷泉の場合は温泉成分を含有してるかどうかが問われるんだけど、熱い湯が湧いたら成分のまったくない白湯?でも温泉と指定されるわけよ。ま、そんな豆知識はいいとして、それと照らすとこの海水使用のものは地中から湧出したものでないので温泉ではないね」

「いやいや、温泉ってなんだろう?と思ってね。効能は認められても温泉じゃない風呂と、まったく効能のない温泉と。そんなこと考えながら、太平洋を眺めながら入浴」

海部駅
海部駅

「バスで甲浦駅へ出て、あちゃ、やっぱり雨降ってきちゃったよ、って阿佐海岸鉄道で県境をまたいで再び徳島入り。海部駅で列車待ちの時間にちょっと早めの夕食しようと。雨を避けながら近くの寿司屋に走りこんだら満席で、そこにもう一軒寿司屋がありますよと商売敵を教えちゃう親切なおかみの指示通りに走ると定休日。じゃあって、なぜか自転車が店内に積み上げられてて雑貨も売ってて町民の集会所も兼ねてるみたいな食堂でカツ丼なんかもさもさ食ってると、さっき同じ列車に乗ってた人が後からやってきて、ああ彼も食うとこほかになかったんだねとこっそり連帯感を感じたり感じなかったり」

「写真はその海部駅。なんか今回は全面的に雨に敗北」

徳島駅まで出て宿取りに難儀した。ゴールデンウィーク後半戦白熱ですか。とか言いながらるるぶに載ってるホテルリストにかたっぱしから電話掛けて11軒目でようやく取れた。小汚いとこだったけどね。なぜかそこは衛星アダルトチャンネルが無料になってて、なんだここ?とか思いながら」

「焼き鳥屋で軽く飲んで、夜半の川べりをちょっと歩いて、無料だったからね、アダルトチャンネルがあんあん言うのを聞きながら本読んで寝た」

2002-05-04(7日目/土曜日・祝日)
また徳島から和歌山へ

新町川沿いに座って
新町川沿いに座って

「ちゃんと観光名所をめぐってる高知はともかく、徳島では何もしてないなぁって思って、よし徳島ラーメンだ。って食べに行ったんだ。徳島ラーメンとしては全国区の知名度の『いのたに』へ。11時前に行ったのに結構混んでた。肉そば(大)に玉子入れて、白飯付けて、正統派で。こってりとおいしゅうございました。これで『徳島行ってきた』って言ってもいいよね」

「あとはこの新町川の川べりで、ベンチに座って本読んでた。休み明けに『日焼けしてるね』って言われたんだけど、焼けたとすればここで過ごした時間でかな。徳島で焼いてきたとはちょっと口にしにくいんだけども、まぁ、小1時間は本読んで座ってて」

「雨が降ったら降ったで、出歩けねぇなって喫茶店で本を読み、晴れたらまた『いい天気だなー』って外で本を読む。じゃあどこでもいいんじゃん。河岸を変えてるだけって感じで。で、この日も結局何にもしてないんだけど、それがおいらの旅のスタイルだ、文句あるかいお嬢さん」

もうちょっと新町川
もうちょっと新町川

「そんなこんなでまだ川べり。あとは駅前の古書店に入ったくらいかな。古書店、駅前の一等地にあれだけ本格古書店があるのはすごいとは思う。古地図とか惹かれて手に取りかけたんだけどやめておいた。確か4年前に来たときにも入ったような気がする」

「そうそう、財布が淋しくなってきたんで銀行のキャッシュコーナーに寄ったんだけどさ、お取り扱いできませんって言われて。嘘って。翌日降ろせてほっとしたんだけど連休はすべてストップしてるのかと思ってさ。残り2万で残り連休ぶらついて東京まで帰れるもんだろうかと悩んだ。クレジットカードは持ち歩いてないし」

「その時点で讃岐うどん食いに高松へ抜ける旅程も考えてたんだけど、やっぱりまた船で和歌山へ出ることにしたんだ。こっちのほうが割安な気がしたので。根拠はないんだけど。場合によっては旅程を切り上げて帰るはめになりそうだし、とりあえず節制で」

また南海フェリーで本土へ
また南海フェリーで本土へ

「この日の船には行楽客が大勢。往路では親戚のうちに訪ねにいくようなおばちゃんらが主体だったのに、ここでは家族連れ多し。徳島から例えば関西へ行こうと思ったら、車の人は淡路島を縦断するのかもしれないけど、このフェリーも結構使い勝手がいいのかもしれんね」

「往路はずっと船内にいたので、甲板にも出てみる。あまり天気はよくないので寒々しいが、紀伊水道に白浪立てて走る、船。神戸淡路鳴門自動車道ができて、海上交通は大打撃を受けたはずだけど、早いし安いし、2000円で行けちゃうんだよ? いいんじゃない?」

和歌山では晩酌は断念して寝るのみ。昨晩あんなにホテル探しに苦労したのに、この日は1軒目でオーケー。たまたまなのか、単に和歌山は人気がないだけなのか」

2002-05-05(8日目/日曜日・祝日)
四天王寺さんを訪ねる

四天王寺五重塔
四天王寺五重塔

四天王寺さんですわ。なにゆえにか。京都はよく行くんだけど、大阪ってなかなかなじめないんだよね。和歌山から大阪経由で京都まで出ようと今日の進路を定め、天王寺に昼食取りに降りただけなんだけどさ。ついでに四天王寺に寄ってみた」

「由緒正しさがそこはかとなくあっていいんじゃないですかね。五重塔にしても金堂にしても、この壁画もうちょっとなんとかならんのかと思うような部分もないではないんだけど、悪く言うつもりは全然ないです」

「大阪に立ち寄ったのは、あれはいつだ、列車で読む本を切らしてしまってJR大阪駅近くの書店飛び込んだのと、天川へのベースとしてやっぱり天王寺で宿泊したのと、今回で3回目か。つまり大阪中心部とかは全然行ってないな。一度大阪襲撃計画立ててみるか」

「その後京都へ出るんだけど、アバンティの書店で長居しすぎて特にどこも見て回らず。ここの書店やっぱり雰囲気好きだな。列車で読む用に3冊買ったんだけど、1冊手付かずで持ち帰ってしまった」

「この日は名古屋で宿泊。焼き鳥屋に入ろうとしたら、連休最終日なんでもう鳥残ってないんすよ、って言われてさびしく寝る」

2002-05-06(9日目/月曜日・祝日)
こだまでゆっくり帰る日

「翌日6日は名古屋から東京まで帰っただけ。連休最終日にて、新幹線は混んでそうだったからこだまに乗ってのんびりと帰りました。そんな感じでどう?」(了)