角田光代『この本が、世界に存在することに』レビュー

書誌情報

角田光代『この本が、世界に存在することに』表紙
この本が、世界に存在することにこのほんがせかいにそんざいすることに
2005/05
NDC:913 | 文学>日本文学>小説 物語
目次:旅する本 / だれか / 手紙 (ほか)

レビュー

人生のなかにぐぐっと食い込んでる本、というエピソードを連ねた短編集。古本屋に売った本にまた出会う驚きや、二人の本棚から自分の本だけ箱に詰めるシンドさだったり、本好きなら胸の底になんか溜まってく小説だ。
読了:2009/04/25

長めの感想

ずっと、川上弘美のエッセイ集だと思いながら読んでたんですよ。通勤電車のなかで。下記のようなエピソードが書かれています。

「旅する本」――古本屋で自分が売った本に、旅先で何度も出会う。
 ……おもしろい話だね。卒業旅行はネパール一人旅だったのね。
「だれか」――タイのバンガローで、旅人が置いて行った片岡義男を読む。
 ……片岡義男……。イメージがアレなので僕は手に取ったことないけど。
「手紙」――宿にあった詩集に、女の手紙が挟まってて思わず読んでしまう。
 ……んー、遺書? そんな手紙公開していいの?
「彼と私の本棚」――男と別れ、二人ぶんの思い出が詰まってる本棚から自分の本だけを段ボールに詰めていく。
 ……なんだこの生々しさは。泣く。
「不幸の種」――台湾の占い師にすぐ捨てろと言われた不幸の本を捨てなかったりして。
 ……台湾の占い師に言われたら、私はすぐに捨てます。
「引き出しの奥」――私はやりまんと呼ばれてる。
 …………ちょっと待ってくれ。

ん、ん?と思って思わず表紙を見ました。もう全体の半分に至ってるのですが、ここに来てようやく気づきました。これは川上弘美のエッセイ集ではなく、角田光代の短編小説集でした。新潮文庫『さがしもの』(単行本時のタイトルは『この本が、世界に存在することに』)。

たしか会社へ出がけに、どっちを鞄に入れようか迷ったんですよね。これと、川上弘美のエッセイ『なんとなくな日々』、2冊の文庫手にとって、迷いつつ「もう出ないと時間が」とか思ってえいやって鞄に片方入れて、出かけたんです。うっかり川上弘美を持って出たつもりで角田光代でした。

なんというかすごく驚いた。別の作家の作品だと思いながらこんなに(文庫で100ページくらい)読み進んだのは初めてです。角田光代にも申し訳ないし川上弘美にも申し訳ない感じです。作風もあんまり似てないはずですよね……。

あ、でもこの『さがしもの』は、「本が好き」な人にはすごくぐっとくるエピソードが詰まった、良作です。おすすめ。って説得力ないですか。

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