ここは涸沢カールという賽の川原そっくりの場所だ。米を炊いたり、暇をつぶすのに石を積む人はいるが、それを崩す鬼はいない。
僕はせっかちな遊牧民たちとともにこぶの裏側を目指して歩き始める。らくだのこぶはバベルの塔とも呼ばれる。地図にはホダカ連峰と記されている。僕が登るのはこぶの中でもとりわけ人を寄せつけたがらない滝谷ドームという名の塔である。
「第五楽章 ブロッケン山の模造人間」より。
山岳部員の主人公、亜久間一人がアタックする穂高連峰。涸沢カールは奥穂高岳に発する氷河によって削られた谷で、穂高登山の基地としてテントが並びます。
掲載日:2012-07-28