ノアンから帰った日よりずっと、パリでは陰々とした曇天の日が続いていたが、十二月に這入るとそれに雪が加わって、時折積っては、街全体を、水に濡れて白の滲んだ水彩画のような輪郭の甘い景色にした。
19世紀、革命のパリ。ショパンとドラクロワのパリ。日本では江戸後期、まだチョンマゲな時代のパリ。
歴史の表舞台に立つことをやめてしまった国という印象が、現代のヨーロッパ諸国には漂っていて(個人的見解)、フランスもまた然り。現代のパリに比べ、この頃の「パリ」のほうが存在感があります。
ドラクロワの『民衆を導く自由の女神』は、動の時代にあったパリがしっかり刻まれてますね。
そういえば彼のデビュー作『日蝕』での舞台は15世紀のフランスでした。自ら「ロマンティック三部作」と呼ぶ、『日蝕』『一月物語』、そして『葬送』。ロマンティックな時代のロマンティックなパリです。
掲載日:2005-10-16