いとうせいこう『解体屋外伝』レビュー
書誌情報

レビュー
長めの感想
サイバーパンクです。あっ待って逃げないで。傑作『ワールズ・エンド・ガーデン』の外伝にあたる作品で、造りはかなり異なっているのですがどちらも必読なんですよぅ。
「洗濯屋(ウォッシャー)」と呼ばれる洗脳のプロとのサイコ・バトルに敗れ精神を壊されてしまった洗脳外しのプロ「解体屋(デプログラマー)」が、自分を壊した相手を探しだし復讐するストーリーです。脳内にジャックインするシーンだとか、精神洞窟(ニューロティック・ケイヴ)、自己洗脳(セルフ・ウォッシュ)など造語にカナルビを振りまくるセンスだとか、いわゆるサイバーパンクと呼ばれるジャンルの顔をしています。
最もアシッドな色をしてるのはサイコ・ダイブのシーンだと思うんですが、ここはサイバーに抗体のない人にはちょっと難解かもしれませんね。自分の精神を三つに分割して「戦闘者(ハッカー)」「操作者(マニピュレータ)」「マザーコンピュータ」とそれぞれの役割を担わせる。脳内世界にジャックインしてゆく戦闘者はなんだか僕には「ジョジョの奇妙な冒険」のスタンドみたいなイメージになってしまうんですが、そういう意味でのベタベタにサイバーな部分もあります。
でもそれはあくまでも容れ物であって、ここでの主題は「言葉」なんです。言葉は解体屋の武器であると同時に、著者が仕掛けた読者へのプログラムでもあります。ストーリーそのものよりも、各所に配置されている言葉の爆弾にこそ、この作品の魅力があります。
注意していないと読んでいるだけでマインドコントロールされてしまうんじゃないかという危険すらあります。そんな匂いをかもす小説は他にお目にかかったことがないので。
「暗示の外に出ろ」と声を発することによって自らに暗示を掛けるような複雑な心理操作、古今東西のテキストを縦横に引用しながら情景を模してゆくような(逆説的な)自己確認だとか、もう読み止まらないです。
特に師である錠前屋(プロテクター)からのCDと疑似会話(フェイク・トーク)するシーンにイカレました。説明しにくいんですが、アミダクジなんです。説明になってねぇな。
しかもこんなにハードSFな内容でありながら、解体屋は愛すべきコミカルさで描かれています。状況にそぐわないジョークも飛ばします(状況を解体するために発せられてるのですが)。それがため文章の速度がすごく心地よくなってて最後まで楽しく読めます。ギブスンを読んだことがないって人にもおすすめです。