新花巻で降りて、バスに乗った。「自炊もできる温泉なんだよ」真人は言った。(中略)終点で降りると、大きな旅館があった。(中略)五階建ての旅館の玄関には入らず、そのまま裏手へまわってゆく。(中略)しばらく歩くと、二階建ての木造の宿がみえてきた。左右に長く棟が張り出した中央にガラスのがらり扉があり、そこが玄関になっている。
— 川上弘美『風花』
花巻温泉郷へやってきた二人。もちろん小説なので、すべてが現実どおりだとは誰も言ってないわけですが、宿が特定できません。戦前からやってる、風呂が深いとか、ほかに表現されるヒントからは、私も泊まったことのある「鉛温泉 藤三旅館」なのかなとも思うのですが、藤三旅館は木造三階建てなんですよね。バスで終点まで行くと新鉛温泉、愛隣館という「大きな旅館」はそこにありますけども裏手にほかに宿はなし、鉛温泉へ行くなら終点まで乗らずその手前で降りるはずです。
藤三旅館ということにしておきましょうか。ここのお風呂は本当によかったですよ。私が行ったのはもう10年も前なのだな。また行きたい。
小説では、主人公「のゆり」が、夫の不倫疑惑(いや事実としての浮気)に心の整理ができないまま、叔父さんと二人で温泉に来てます。このシチュエーションもよく分からない、温泉旅行です。
関連サイト:鉛温泉 藤三旅館
掲載日:2012-04-22