このアクロポリスの丘は本当の意味での廃墟ではなかった。注意深く荒らしたままにしてあるという気配が色濃く漂っている。パルテノン神殿はどの角度から見ても間違いなく美しかったが、その姿は、信仰の地として生きるでもなく、廃墟として徹底的に死に切るわけでもなく、ただ観光地として無様に生き永らえていることを恥じているようでもあった。
「第十四章 客人志願」より。
パルテノン神殿などを擁する世界遺産、アテナイのアクロポリス。あまり観光地然とした場所は訪ねない旅ではあるものの、ここくらいは見るか。記念写真を撮ってくれと旅行者に頼まれるのも久しぶりだと思う沢木耕太郎。
国家事業としてだいぶ修復されたはずなので、著者の旅した時代よりは小奇麗になってるかもしれませんが、廃墟といえば廃墟だし、観光地といえば観光地です。
掲載日:2012-07-28