たとえばいつもバスに乗る「丸山神社前」という停留所の名前を、「ジェロニモス修道院前」と言い換えてみれば、右手に海を見ながら丘を越えて市街地へ入っていく経路は、リスボンの地形とそっくりで、だったらこの「岸壁沿いの県道」が「7月24日通り」で、再開発で港に完成した「水辺の公園」は「コメルシオ広場」だ、などと言い換えているうちに、県庁所在地でもない、どちらかといえば地味な日本の地方都市に、リスボンの市街地図がすっかり重なってしまった。
すんません、長い引用をしてしまいました。
「地味な日本の地方都市」がどこなのかは作中には書かれていませんが、主人公にとってリスボンと重なる街。といっても本人はリスボンには行ったことがなくて、地図を見ては当てはめているだけなのですけれどね。
脳内リスボン。そんなわけねぇだろと思う人もいるでしょうし、そんなようなこと思ったことある、という人もいるでしょうが。
「この街が好きだ」←→「こんな街大嫌い」、「この街で暮らしてゆきたい」←→「こんな街から早く逃げ出したい」という両側に大きく揺らいでいる、自分の心が定まっていない感じ、そういったものがこのエピソードには含まれているのですね。それだったら分かりますよね?
物語の舞台というかリスボンさえ関係ない話なんですけど。
掲載日:2006-02-05